研究実績の概要 |
2004年にソウルに創設された第1号以来、わずか10年余りの間に世界各地に500余か所も設置された孔子学院(これに準じる孔子課堂と呼ばれる1,000余の機関もある)を拠点として、中国が展開する対外的な中国語・中国文化の普及活動に注目し、同国の対外言語教育政策と具体的実施措置の実証的解明に努めた。孔子学院急増の背景には、国際舞台でのプレゼンスを強める中国側のプッシュ要因と、一方で招致国側のプル要因が認められるが、その力学は一様ではなく、国・地域・機関による違いがある。 孔子学院は、政治的影響力やイデオロギーを浸透させる「ソフト・パワー」発揮の手段であり、中国の宣伝機関や潜在的な「文化侵略」との批判もある。欧米の一部大学にキャンパス内での運営を見直し、停止するところも出ている。中国国内でも、その不均衡な教育発展や地域間格差の存在を理由に、巨額な予算が投じられる事業への反対論があるにもかかわらず、中国が批判を脇に置き、本事業を推進してきたのは、それを国家的対外戦略と位置づけているからである。本研究では、孔子学院を拠点とする対外的言語教育政策・実践の展開を振り返り、繰り返される批難の妥当性の検討も含めて、①管理運営組織と様式、②教員の質保証、③所在大学との関係、④内容面での影響関係の各観点から、内在する政策的意図や問題点を明らかにした。 目的達成のため、各国所在の孔子学院のホームページから得られるインターネット情報も含めて、関連文献・資料を収集、翻訳、整理した。文献・資料のみから得がたい実態に迫るため、典型事例と思われる国内外の孔子学院をはじめ、関係機関を数多く訪問し、聞き取り調査を行った。各機関の比較考察を通じて、立地条件を考慮に入れた特色や新機軸を打ち出した孔子学院に発展可能性が認められた。文献研究やフィールドワークの成果を取り纏め、最終報告書として2017年3月に刊行した。
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