研究課題/領域番号 |
26381144
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
杉谷 祐美子 青山学院大学, 教育人間科学部, 教授 (70308154)
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研究分担者 |
小島 佐恵子 玉川大学, 教育学部, 准教授 (40434196)
白川 優治 千葉大学, 国際教養学部, 准教授 (50434254)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 大学教育 / 地方都市 / COC / COC+ / 大学政策 / 社会調査 |
研究実績の概要 |
本研究は、地方都市部の大学教育の社会的意義と役割期待について、大学側の取組と地方自治体、企業、地域住民等のステイクホルダーの両面から実証的に分析し、大学教育機会の量的規模と大学教育の質に関する政策的示唆を導き出す。平成27年度は前年度の研究計画の修正を経て、以下の研究を行った。 第1に、地方都市部のなかでも大学が地域再生・活性化の核となるべく精力的に取り組んでいる地域の状況を明らかにするために、「地(知)の拠点整備事業(大学COC)」、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」で採択された大学の傾向を分析した。そして、COCからCOC+にかけて3年連続で採択された地域のうち、政令指定都市のある県を除いた4県から東日本に絞って、山形県、群馬県、山梨県を事例研究として取り上げた。これらの県の採択大学における取組内容や実施体制の特徴を確認し、大学と地域社会の関係の在り方とそうした取組を促す背景について考察した結果、地域による多様性はみられながらも、各県域内の高等教育機関の構造的特質とともに、県外・県内での大学間競争と若年層の人口流出および高齢化の進展への危機意識が大学と地域との連携を促す共通した要因になっていることを明らかにした。 第2に、上記の事例研究のうち、東京近郊の群馬県、山梨県を対象に、当該地域の一般市民というステイクホルダーの反応を明らかにするために、大学教育の現状認識・社会的意義・役割期待について質問紙による社会調査を実施した。この調査では、日本の大学のあり方や量的な現状に対する認識、大学についての考え方、大学に関する関心事や情報把握の状況とともに、県内の大学のあり方や貢献度、それらの大学との関わり方や情報を知る機会など幅広く尋ねた。また、研究代表者・分担者が以前実施した社会調査の結果と比較もしくは総合的に分析できるような調査設計にした点も特色といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はこれまで研究代表者・分担者が行ってきた一般市民への社会調査研究をさらに発展させ、大学側の取組と地方自治体、企業、地域住民等のステイクホルダーの両面から、地方都市部の大学教育の社会的意義と役割期待について実証的に分析し、大学教育機会の量的規模と大学教育の質に関する政策的示唆を導き出す。その目的から見て、最新の政策動向や社会状況、先行研究も十分に踏まえたうえで、平成27年度の調査研究を適切に進めることができた。 第1に、平成25年度からのCOC、平成27年度に改称したCOC+に3年連続で採択されている、大学の地域貢献が活発な地域を対象とした事例研究では、地域に密着した課題に基づき、大学が地方自治体や地場産業、地元企業、ならびに地域住民等と連携しながら課題解決に向けて取組んでいる地方都市部の深刻な地域事情と大学の厳しい状況を明らかにすることができ、政策的にも時宜に叶った研究となっている。 第2に、COC、COC+事業地域の一般市民を対象にした社会調査の研究は、先行研究でも指摘されている、地域が大学の地域貢献をどのように評価し、何を望んでいるかについて十分に把握されないまま地域貢献が進められてきた現状に新たな知見をもたらす可能性をもっている。この調査は、(1)すでに平成24年に同様の調査を実施しており、時間経過、調査地域の両面から前回調査と比較可能となっている、(2)日本の大学全般に関する設問と居住県内の大学に関する設問を分けており、大学についての考え方を区別しようとしている、(3)先行研究で大学からの情報発信が課題とされている点を踏まえ、住民の大学に関する関心事や情報把握、大学との接触・交流との関連を探ろうとしている、といった点に特徴がみられ、分析結果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究成果に基づき、当初の研究目的を達成するために、調査研究計画を若干修正しつつ、以下のように進めていく予定である。 社会調査については前回調査のデータなども含めてデータの分析を進め、高等教育関係の学会において、研究成果を研究代表者・分担者で共同発表することになっている。学会発表や質問・意見等において得られた専門的知見、ならびに下記の訪問調査の成果なども踏まえて、研究成果を論文にまとめる予定である。 社会調査の分析結果の妥当性を検証するためにも、平成27年度に計画していた調査対象地域での情報収集と訪問調査を実施する予定である。社会調査および事例研究の対象としたCOC、COC+事業地域において、事業の連携(参加)自治体、参加大学、参加企業等に訪問調査を行い、地域の特性や人材養成需要、採択までの地域との関係性、地域の課題発掘の方法、課題解決に向けての大学教育の意義や地元からの役割期待、地方自治体や中小企業等との連携体制の構築過程、取組の成果や課題、在学生や卒業生への影響などについて尋ねる。個々の地域における大学、地方自治体、企業との関係をより深く掘り下げて分析できるように、インタビューによる質的調査を行う。 さらに、平成28年度は最終年度として、以上の研究成果を統合し学術的知見として整理することにより、高等教育研究において注目されることの少なかった地方都市部の大学について、大学教育機会の量的規模と大学教育の質に関する政策的含意を導き出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究目的と概ね相違はないが、平成27年度より調査の対象と進め方を変更することにした。調査対象地域における社会調査について、作業の効率性とデータの信頼性の点から考えて、実働作業を実績のある調査会社に一括して委託した。また、調査対象地域への訪問調査を計画しており、事例研究と社会調査の進捗状況により、調査時期を勘案していた。これらにより、業務委託費と旅費が3年間にわたる研究費総額の大部分を占めるようになることが予想され、その執行を柔軟に行えるように、平成27年度の支払請求額を多くした。
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次年度使用額の使用計画 |
社会調査の分析と訪問調査を中心に進めつつ、3年間の研究の総括および全体の研究成果をとりまとめるために研究費を使用する。 社会調査の研究成果は、平成28年6月に追手門学院大学で開催される日本高等教育学会第19回大会において、「地域住民の大学に対する現状認識と役割期待 -COC、COC+事業地域の調査より-」と題して発表することになっている。また、調査結果の解釈のために、対象地域(群馬県、山梨県)の情報収集、大学、地方自治体、企業等への訪問調査を行うことを計画している。これらのための旅費として研究費を使用する。残りの研究費に関しては可能な範囲で、全体の研究成果をまとめ、公表することを目的に、最終年度報告書の印刷・製本を行う予定である。ただし、最終年度報告書は、旅費の執行状況等に応じて、紙媒体ではなく電子ファイル等の代替案を検討するなどの措置も考えている。
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