本研究では、日本、香港、上海の都市部の小中高生の学校外学習時間に関する量的及び質的調査を行うことにより、家庭背景による学校外学習時間の格差、その格差生成メカニズムを明らかにすることを目的とする。家庭における学習と塾における学習両方を「学校外学習」と定義することにより、より国際比較可能なデータを構築するとともに、家庭および塾での学習を行っていない二重に不利な層(学習習慣を習得していない生徒)に焦点を当てる。 小学生の量的データを分析した結果、以下の点が明らかになった。(1)日本の都市部では家での学習時間に階層差があり、上海都市部と比べてもその程度が大きい一方、日本同様に「学歴社会」で、学校外教育投資が日本より早期に始まる香港都市部では、家での学習時間に階層差がないことが確認された。(2)家での学習時間に対する階層効果の大部分は通塾に媒介されており、3つの社会の比較では日本都市部特有のメカニズムであることが明らかになった。日本都市部の子どもの学習習慣の分散の大きさの背後には、このようなメカニズムがある。下位階層の子どもは、塾で学ぶ機会も家で学ぶ習慣もないために、二重に不利な状況にある。(3)通塾が家での学習習慣に及ぼす効果は、子どもの学習に対する態度に一部媒介されることが確認された。一方、香港・上海都市部においては、子どもの学習に対する態度は、家庭の経済的・文化的資本や通塾の影響を全く受けないことが明らかになった。 質的データからは、香港、上海都市部では、小学生の学習習慣は主に学校で形成されていること、学習の必要性や教育効果に対する期待が社会の規範として共有されていることが確認された。それぞれの社会の都市部という限定された地域のデータに基づくことに留意が必要であるが、他の社会との比較から、日本の都市部における子どもの学習習慣の形成メカニズムの固有性が明らかになった。
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