京畿道学生人権条例は全国教職員組合(全教組)という韓国の小中高等学校教員が加入する教員労組が中心に活動することで、成立にこぎつけた。しかし、全教組加入の教師全てが同条例を歓迎したわけではなく、学校内のヒエラルキーの中で、管理職や保護者、そして生徒からの圧力の間で苦悩する教師たちにとっては体罰をはじめとする生徒への「制裁権限」は自身が生き残るためのストラテジーでもあった。つまり、児童生徒への人権侵害問題は個々の教師による問題ではなく、学校の構造的問題なのである。こうした教師たちの生き残りの手段の一つが児童生徒人権擁護のために脅かされる事態になったわけであるから、抵抗も当然であった。 そんな中、同条例は学校内に存在するヒエラルキーを見直し、互いに人権親和的な学校文化を創造することを志向するものであり、教師の教育権を確立し、教師自身をも守ることに作用するものであることが確認された。こうした認識を一般の教師に浸透させるのは難しいものの、条例の制定により、条例に反する校則が禁止されるなど、実効性を伴う措置がとられ、従来当たり前であったと思われてきた児童生徒への人権侵害にかかわる事項が解消されてきたことも事実である。また、教師の意識を人権親和的なものに変化させるために京畿道人権教育研究会といった教師が主体となって結成された研究会が行う教員研修も有効に作用していたことが確認された。 こうしたことから、本研究では、①学校内のヒエラルキーを人権親和的なものに変革した、②条例に対する教師の反発は大きいものの、長期的に見て教師の教育権を確立するのに役立つ、③教育庁が制度化した条例の趣旨を理解するための教員研修を活性化することで教師の認識が高まる、④他の地域にも条例が拡散する萌芽がみられる、などの事柄が明らかになった。
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