本研究は、NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)型教育行政改革における市民の位置づけについて、市民と学校の関係性、また背景をなす教育や政治に関する思想的・制度的伝統について検討するものである。研究期間全体を通じて、主として市民による学校運営参加の理念のもとに改革を進めたニュージーランドを事例に、多数派ヨーロッパ系生徒との間の教育格差が著しいマイノリティの先住民及び移民(太平洋島嶼系)生徒の在籍比率が高い学校を中心に調査研究を行った。 2015年度には、同国における制度改革の背景をなした政治的・思想的条件について整理し、同国の改革が、左派が準備した改革構想を土台に、先住民マオリの民族自決運動を象徴的に利用しつつ新制度派経済学の論理が導入され、その後マネジリアリズムとの両輪がニュー・ライトの後押しのもと貫かれる形で成立したことを見出した。 2016・2017年度は、同国における2種の学校タイプ、すなわち先住民マオリ市民が民族自決運動の文脈において草の根レベルの運動により創設し、運営してきた経緯をもつ公立の先住民学校と、新たに近年法制化されたチャーター・スクールにあたるパートナーシップ・スクールに着目し、現地調査を行った。 結果、民族自決運動を展開してきたマオリ系市民にとって、NPM型改革は二重の意味をもたらしていること、またニュージーランド版チャーター・スクール制度はその正統性が民主主義的に担保されているとは言えず、広く学校関係者の間に深刻な軋轢を生んでいる一方で、結果責任が強く求められる同学校制度は先住民生徒や太平洋島嶼系移民生徒の教育向上に資すると期待する向きもあること、とりわけ太平洋島嶼系生徒にとっては自文化の新たな承認の機会となっていること、等を明らかにした。
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