研究課題/領域番号 |
26381180
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
坂口 謙一 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (30284425)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 創意工夫 / 技術開発 / プロジェクト活動 / 問題解決活動 / 青年学校 / 修身・公民教育 / 総力戦 / 国民教育 |
研究実績の概要 |
本研究は,第1次世界大戦後の日本の農村におけるノンエリート層の若者たちを対象とした,農業教育を中核の1つとする青年期のカリキュラム構成に焦点を当てるものである。そして,日本が,あらゆる国民・資源を総動員しようとする総力戦体制化を進めるなかで,概ね12歳から20歳までを一貫した多面的な農業実習を重点的に編成するとともに,強靱な国民意識・公共心を養う修身・公民教育等と連携して,彼・彼女たちから,現代的な農業の担い手としての国民に必要とされる主体的な「創意工夫」を引き出すためのプロジェクト活動に近い経験単元学習を推進しようとした歴史的過程の特徴と意味を理論的かつ実証的に明らかにすることを目的としている。研究期間は平成26~29年度の4年間である。 研究2年目の平成27年度における主要な研究課題は,次の2点であった。 第1に,平成26年度の主要な研究課題とした,茨城県における青年期の大衆的な農業教育の構造を事例的に解明することについて,分析結果を総括することにした。また第2に,アジア・太平洋戦争末期に編纂された国民学校高等科実業科用の国定教科書『高等科農業』(1944~1945年)がその内容の「根幹」に「郷土に立脚して展開されるプロジェクト学習」を位置づけていたとする文部省編纂担当者(島田喜知治)の見解に注目し,当該「プロジェクト学習」の位置づけの意味と論理を解明することに設定した。 このうち,平成27年度にとくに重点化した研究課題は,第2の課題である。具体的には,まずは『高等科農業』の特質を解明するための前提的な問題として,国民教育としての「創意工夫」養成の観点から,青年学校の修身及公民科用の国定教科書『青年修身公民書』の内容,およびその背景となったアジア・太平洋戦争の時代における国民の「創意工夫」養成に関する政策の動向等を分析し,その特徴を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度の主要な研究課題は,前出「研究実績の概要」欄に述べたように,アジア・太平洋戦争末期に編纂された国定教科書『高等科農業』がその内容の「根幹」に「郷土に立脚して展開されるプロジェクト学習」を位置づけていたとする文部省編纂担当者の見解に注目し,まずはこの『高等科農業』の特質を解明するための前提的な問題の1つとして,国民教育としての「創意工夫」養成の観点から,青年学校の修身及公民科用の国定教科書『青年修身公民書』の内容,およびその背景となったアジア・太平洋戦争の時代における国民の「創意工夫」養成に関する政策の動向等を分析することであった。 この分析については,平成26年度中に予備的な作業を終えていたため,概ね順調に進めることができた。 この結果,アジア・太平洋戦争の時代における日本の総力戦体制化は,厖大な数のノンエリートの働く若者たちに対して,世界と対峙する帝国日本を強く意識させながら,身近な労働現場の改善を中心として,公共的課題を解決するための汎用的技術開発などをめざすプロジェクト活動に近い問題解決活動の推進者に育成するという国民教育の新たな要素を構築し,大衆の技術開発者化を推進したこと等が解明された。こうした分析結果の要点は,学会誌に投稿し,現在,審査中である。 また,平成26年度の主要な研究課題とした,茨城県における青年期の大衆的な農業教育の構造を事例的に解明することについて分析結果を総括するという第1の研究課題については,その結果を,査読付き学術研究誌に投稿し,掲載可となった。現在,印刷中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,本研究の3年目であり,大きくは次の2つの研究課題に取り組む。 第1の研究課題は,「研究実績の概要」「現在までの進捗状況」欄で述べた,国民学校高等科実業科用の国定教科書『高等科農業』(1944~1945年)がその内容の「根幹」に「郷土に立脚して展開されるプロジェクト学習」を位置づけていたとする文部省編纂担当者の見解に注目しながら,この『高等科農業』が提案した教育課程構造の特徴を解明することである。教育学の定説としては,普通教育における問題解決活動・プロジェクト活動の日本における「原型」は,歴史的に見ると,1920年代前半に昂揚した大正自由教育において「流行」したものの,「1930年代には衰退してしまった」とされている。『高等科農業』の特質に関する解明は,こうした教育学の定説を塗り替える可能性がある。 第2の研究課題は,前述のように,平成27年度の取り組みに際して主要な分析の観点とした,国民教育としての「創意工夫」養成という論点を深めることである。具体的には,平成27年度の研究を通して,大日本連合青年団などによる青年団体がアジア・太平洋戦争の時代に精力を傾注した「一人一研究」および関連する活動に注目することの重要性が明らかとなった。平成28年度は,こうした「一人一研究」等の取り組みを,問題解決活動・プロジェクト活動の観点から調査・分析し,その特徴を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は,「次年度使用額」として約96,000円が残った。これは,文書撮影用に購入を予定していたカメラレンズの品切りが続いたこと,および古書購入の見込額に誤差が生じたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
農業教育史関係古書,青年教育史関係古書の購入に充てる。
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