本研究は、これまでの3年間に、概ね次のことを解明してきた。すなわち、アジア・太平洋戦争の時代における日本の総力戦体制化は、膨大な数のノンエリートの働く若者たちに対して、世界と対峙する帝国日本を強く意識させながら、身近な労働現場の改善を中心として、公共的課題を解決するための汎用的技術開発などをめざすプロジェクト活動に近い問題解決活動の推進者に育成するという、国民教育の新たな要素を構築し、大衆の技術開発者化を推進したこと等である。 本研究の最終年度である平成29年度は、第1に、こうした考察の妥当性を再検証し、最終的にこの考察を本研究の4年間の総括とすることにした。 また第2に、平成29年度においては、平成28年度「研究実施状況報告書」で述べたように、当初は分析資料上の制約の問題等のため重点化する予定がなかったアジア・太平洋戦争の時代の終盤の時期についても、研究課題を限定的に設定した上で、積極的に対象化することを試みた。具体的には、国民学校高等科の実業科農業用の国定教科書『高等科農業』(1944~1945年)に関する分析である。この結果、同教科書の編纂主任・島田喜知治により内容上の「根幹」とされた「郷土に立脚して展開されるプロジェクト学習」とは、農業従事者が就業構造上の主力を占める時代の子どもたちが、自らが生きる地域において、現代的な複合的・多角的農業を営む上で不可欠な、農作業上および農業経営上の実際的で科学的・合理的な問題解決能力の基礎的な部分を育むことをめざしていたと見ることができた。この考察は、上述した本研究の総括と整合的であり、むしろ総括を補強するものとなった。
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