研究実績の概要 |
本研究は,算数・数学の教員研修における質の異なる教師の学習を特定し,個々の研修の役割を明確にすることを目的としたものである.算数・数学教師らによる「地域・地方の研究会」と都道府県から派遣されて推進される「教職大学院における研修」という形態の大きく異なる二つの研修を取り上げ,各々における教師の学習の特徴と役割の明確化を試みた. 地域・地方の研究会については,平成26, 27年度に小・中学校の算数・数学教師のそこでの活動(発表や討議)及び関連する活動のデータ(映像,発表資料等)を収集した.これらのデータは,主に二つの方向性で分析した.第一に,研究会での活動を教授人間学理論の視点から分析し,教師の学習が協働のみでは不十分であること,外からの新たなリソースが大事になることを示した.この結果は,2015年夏にフランスで開催された数学教授学夏期講習会の招待講演で海外研究協力者と共に発表し,講演内容は書籍の一部として2016年に出版された.第二に,データを教師による実践研究という視点から分析し,地域・地方の研究会での活動を通して教師の知識・技能が共有され広がっていく様を示すとともに,教師の種々の活動を可能とする日本の環境(教授インフラと呼ぶ)が教師の学習の鍵となっていることを示した.この分析は,主に平成28年度に海外研究協力者と進めたものであり,結果は主要国際学術誌に投稿中である. 一方,教職大学院における研修については,平成27年度に教職大学院に在籍する現職教員が実習中につけた日誌をデータとして収集し,一年目と二年目の実習日誌の記述の変化の分析から教師の学習を特徴付けた.この分析結果をまとめた論文は,国際数学教育心理学会 (PME) の年会に投稿し審査に合格したため,2015年夏にオーストラリアで開催された年会で発表した.このデータの分析は,さらに精緻化を進めている.
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