本研究は、社会科教育において、社会的問題状況を巡って従来組織されてきた①学習者間の対立と討論を展開させる実践、および②何らかの合意形成や集団意思決定の創出をめざさせる実践それぞれの難点を克服すべく、「交渉」を通じた競争的合意形成を体験させる実践を組織し、それによって①現実の社会的問題解決に関する真正な学習経験を組織し、②多様性を活力として発展する民主社会の有為な構成員を育成することをめざした。 本研究は、この課題のため、ゲーム形式で交渉を体験させる授業構成を採用し、学校種・分野別(歴史分野及び公民分野)に対応した複数のゲーム開発、授業実施及び効果検証を行ってきた。共通した主要な効果測定観点としては①ゲーム内の立場的利害の追求の意義理解、②合意形成の必要性と意義の理解、③ゲーム状況で形成した合意に関する、現実の歴史・社会的文脈に照らした評価的思考力、の3点である。 本研究期間を通じて開発し、大学生を被験者として試験実施を行ったゲーム案は10件ほどとなるが、このうち、継続的改良を加え、その都度高校での効果検証を経たゲーム案は、第二次大戦後の占領からの独立をめぐる日本と米国の交渉を題材としたものである。このゲームにつき、研究3年目のH28年度には、ゲーム内交渉結果が現実の歴史の中で持ちうる意義や限界につき考察させるゲーム後ディスカッションを組織し、ゲーム状況と現実社会との連関性を高めることで社会参加意欲や批判的社会認識の形成においてともに効果を確認した。 その他、H28年度には国際社会の課題に取り組ませるゲーム開発として、既存の「貿易ゲーム」に、通商ルールにつきプレーヤー間で交渉・制定するフェイズを挿入した改良版の開発と高校での実施、英国のEU離脱是非を事象と同時進行で当事者として議論するゲームの開発と大学での試験実施、などを行い、国際社会の問題解決力形成へと課題の展開を試みた。
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