3年におよぶ研究期間全体を通じて得られた本研究の成果は、離島・山間部・都市部、大規模校・中規模校・小規模校、さらに、若手教師・熟練教師と、多様な高校に勤務する多様な国語科教師の、実践経験に裏打ちされた教科内容観の相対的特質を概念化したことに集約される。 このうち、平成28年度の研究活動は、実地調査(研究協力者【現職教師】による高校国語科授業の観察とインタビュー調査)、調査で得られたデータの分析、研究成果の論文発表から成る。平成28年度に論文化できた成果として、ともに離島高校に勤務する若手教師と熟練教師と、互いに教職経験年数の異なる国語科教師の教科内容観の共通性と、経験年数の多寡に基づく差異性を解明したことが挙げられる。また、調査は終了しているが論文化に至っていない成果として、学校環境も教職経験年数も互いに異なる他の国語科教師の教科内容観の捉え方に触れることで、個々の教師が自身の授業改善に向けた課題解消の見通しを主体的に導き出すまでの過程をモデル化することが挙げられる。 本研究の意義は、国語科教師の教科内容観について、先行研究や多くの現場教師の捉え方とは異なる切り取り方をした点に見出される。具体的には次の通りである。 ・従来の国語科教師研究の多くは、教師のライフストーリーや教師自身の教科内容に関する信念(学習者にどうしても教えたい内容)から教科内容観を概念化してきた。一方、本研究は、特定地域の学習者が社会生活を円滑に送るために必要な力という観点から教師たちの教科内容観を捉えた。 ・高校国語科授業の多くは、教科書に象徴される教科専門的知識を中心に実践されるが、本研究で取り上げた教師たちの実践は、教科書を尊重しつつも絶対化していない。国語=ことばの学習という立ち位置を崩すことなく、学習者の社会生活力の育成を見据え、教科書を相対化しつつ授業をデザインしている点に特徴がある。
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