本研究では、日本人英語教員に、自らが持っている内的なスピーキング評価基準について内省を促すためのオンラインシステムを開発した。本システムでは、ユーザである英語教員は、学習者が何かしらの課題の中で英語を話しているビデオクリップを3つ視聴しながら、各学習者について語彙・表現の幅、文法的正確さ、流暢さ、および発音の質という4つの尺度(から選択したもの)に基づいて評価を行う。ビデオクリップは1つあたり7~8分程度の長さであり、多数のビデオクリップから、システムにログインするたびにランダムに3つが選択され、ユーザに提示される。ユーザの評価はオンライン上で多相ラッシュ・モデル(MFRM)を用いて分析される。具体的には、ユーザの評価を、過去に多数の日本人英語教員が同じ評価項目に基づいて同じビデオクリップに対してくだした評価を蓄積したデータベースと照合し、ユーザーの評価傾向を捉える。ユーザには、全体的な評価の厳しさ/甘さの傾向とともに、評価項目ごとの評価の厳しさ/甘さが日本人英語教員の一般的な評価傾向からどの程度逸脱しているかを視覚的にフィードバックする仕様とした。
本システムの開発・今後の活用には少なくとも以下の2つの意義がある。 (1)スピーキング技能の指導・評価を行ううえで避けて通ることのできない(評価基準などに基づく)主観的評価に対する英語教員の認識を深めるとともに、自身の評価の妥当性について内省を促すことができる。 (2)本システムを活用することで、英語母語話者による主観的評価についても大規模なデータ収集を容易に行うことができる。今後、日本人英語教員と英語母語話者のスピーキング評価傾向の違いを探るといった研究の足がかりとなる。
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