本年度は、前年度の成果から導き出された新視点「歴史学習指導場面における方向付け」に着目し、実証的な探究とナラティヴとの交差する歴史学習過程での指導方略にアプローチした。対象としたのは前年度及び本年度に収集した中学校歴史授業及び小学校歴史授業における授業内会話プロトコルである。これらの対象に対する分析を経て、次の2つの点に関する傾向抽出を行った。 一つは「アクティブな学び」と評せられる活動的・作業的な学習活動が含まれた歴史授業における学習指導方略の傾向である。このような授業は「課題-対話または話し合い-発表」というサイクルが2回構成され、1回目と2回目で事実と解釈、現在視点と当時視点という境界を渡るように構成され、学習活動は個人活動、近隣活動、グループ活動からなり、内容的には解釈、予想、情報選択を共同的に行い、常に合意形成に向けられ、歴史理解は個と共同の間で常に「動き」の中にあることがはかられる傾向をもつことが明らかになった。ここでの教師の指導は「対話または話し合い」の結果としての発表・意見表出に対し、発言のどの部分を取り上げ、共通性で集約するか差異性で分類するかをめぐって、概念化したり視点を意識化するなど「動かす」ことに向けた対処が行われている。 もう一つは、学習過程における学習者の類型別に着目した学習指導方略の傾向である。ここでは学習者の類型として、話し合い活動等への「参加類型」(よく発言する子ども、発言のない子ども等)、及び発言内容の「主張類型」(何に着目して何を論拠に発言するか等)を各々いくつかに区分し、各類型に対する教師の指導的対応を抽出した。結果的には、この過程にこそ実証的な探究への指導、ナラティヴへの指導が色濃く現れており、それらの指導は話し合い活動等における課題の設定や話し合う際の活動の形態にも関係していることが明らかになった。
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