本研究の目的は,中学校数学科「関数」領域における「課題探究型の説明学習」や,その「学習軌道」を理論的・実証的に明らかにするための基礎的資料を得ることである。研究最終年度(三年次)としての本年度は,前年度までに精緻化した学習軌道をもとに,水準の移行を図るための典型的な教材や授業展開を検討・開発すること,および,(2)授業実践を通して,それらの効果を検証し,学習軌道全体を実証的に検討するための基礎的資料を得ることを目的とし,研究を進めた。 (1)の目的に対しては,中学校第1学年「比例と反比例」を対象に,学習レベルOから学習レベル(P2,C2)への水準の移行を図る教材および授業展開を検討した。事前検討の結果,水準の移行を意図した場合,用いる題材としては,比例の素材ではなく反比例の素材を用いた方がよいことや,授業の展開としては,Oから(O,C2)への移行を図る段階と(O,C2)から(P2,C2)への移行を図る段階との2つの段階に分けて授業を構成する方がよいことなどが仮説的に明らかとなった。 (2)の目的に対しては,事前検討の結果を受けて開発した教材や授業展開をもとに,Oから(O,C2)への移行と(O,C2)から(P2,C2)への移行を意図した授業実践を国立大学附属中学校2校において実施した。その結果,特にOから(O,C2)への水準の移行を意図した授業においては,次のことが重要であることが示唆された。1)発見の文脈と正当化の文脈を切り分けて指導すること。2)どのような説明がよい説明(証明)であるかというよい説明(証明)に対する規準を生徒から引き出すための指導の手立て。 これらの結果を受け,学習軌道全体での水準の移行を実証的に検討することが今後の重要な課題である。
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