平成28年度の研究成果は次の3点である。 第1に,批判的教科書活用論に基づく中学校社会科授業を開発し,その妥当性を実験的に吟味した。具体的には,大学院生に批判的教科書活用論に基づく授業作りを指導し,「キリスト教世界とルネサンス」「ヨーロッパと外の世界」「ヨーロッパ人との出会い」という3つの歴史授業を開発・実践し,その効果を検証した。この研究成果は,「批判的教科書活用論に基づく中学校社会科授業開発(3)―民主的な国家・社会の形成者を育成するために―」(『熊本大学教育学部紀要』第65号2016年12月)というタイトルのもと論文発表を行った。 第2に,批判的教科書活用論を組み込んだ中学校教育実習指導方法の開発に取り組んだ。教育実習の全体プログラムを一般教授学の視点(教材―教師―子ども)ではなく,教科教育学の視点(目標―内容―方法)で組み立て,そこに批判的教科書活用論を位置づけることにより,教育実習生の教職意識をより高める可能性があることが分かった。この実習指導の詳細については,「社会科教師としての自覚を育てる中学校教育実習指導の方法―反省的実践家の育成をめざして―」というタイトルのもと,2016年11月6日に,日本社会科教育学会第66回全国研究大会において口頭発表を行った。 第3に,子どもの授業評価を活用して授業を改善するという新しい授業検討方法を提起した。子どもに教科目標を視点に授業を評価させ,その評価結果を教師が授業改善に役立てるという方法を提起し実施することにより,批判的教科書活用論を含む授業作り理論を吟味・検討する方法の可能性を拡大させることができた。この研究成果は,「子どもの授業評価を活用した社会科授業改善の方法―子どもに開かれた授業検討方法の構築をめざして―」(『社会系教科教育学研究』第28号2016年12月)というタイトルのもと論文発表を行った。
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