平成28年度(最終年度)の研究課題は、報告書の作成と研究成果の公開である。研究代表者は、思春期における造形表現の質的変化をふまえた美術教育の方法論に関するこれまでの研究成果を見直し、理論的な面からの整理を行った。またそれに併行して、研究協力者に対して2年間の教育現場での教育実践を中心に実践研究の成果に関する報告書の提出を依頼した。 理論的な面から研究については、「(1)思春期の子どもの描画をめぐるこれまでの発達研究の成果と課題」「(2)表現の動因及び意図に基づく描画の発達過程の再検討」「(3)表現意図の形成に伴う困難としての思春期の危機」「(4)思春期の美術教育におけるリアリズムの問題」「(5)造形表現の過渡期としての思春期の美術教育のあり方」の観点から、思春期における造形表現の質的変化とそれをふまえた美術教育の方法論に関する研究の成果を取りまとめた。また、研究協力者による授業実践を通した実践的側面からの研究については、小学校高学年を対象とするもの1件、中学生を対象とするもの11件の計12件の成果報告が得られた。 以上の研究によって明らかになった主な点は、「(1)思春期の子どもの造形表現に対する抵抗感やつまずきは、単に技術的な問題に起因するのではなく、言語の運用能力の発達に伴う造形表現(描画)に対する関心の低下と、それに付随する表現意図の形成の困難にあること」「(2)表現意図の形成とその具体化の方法とを子どもが一体的に考えられるような指導が必要であること」である。これらの基本的知見は、研究協力者による実践を通して「(3)思春期の子どもを対象とする美術教育においてどのような指導計画及び指導方法の改善が必要か」という視点から検証を行った。 本研究課題における研究成果は、書籍『造形表現の過渡期としての思春期の美術教育』にまとめ、平成29年8月を目途に出版し公開する予定である。
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