研究課題/領域番号 |
26381240
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
古山 典子 就実大学, 教育学部, 准教授 (10454852)
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研究分担者 |
瀧川 淳 上野学園大学, 音楽学部, 講師 (70531036)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 音楽指導観 / 価値観 / フィールドワーク |
研究実績の概要 |
平成26年度は、小学校教師(担任教師と音楽専科教師)と、音楽家であり専門教育に携わる指導者の音楽指導観の様相を明らかにすることを目的として、インタビュー調査とフィールドワークを実施した。 研究成果の公表については、日本学校音楽教育学会第19回全国大会(熊本大学)において、共同研究者である瀧川淳(上野学園大学)とともに「小学校教師と音楽家における音楽指導観の比較研究」の口頭発表を行った。また、日本音楽教育学会第45回大会(聖心女子大学)で、「フィールドワークとインタビューの分析を通した音楽指導観の比較研究(序)」の発表を行うともに、『学校音楽教育研究19』(日本学校音楽教育学会編)に研究成果をまとめた。 平成26年度の研究によって、知識や技術がなければ音楽を楽しむことができないことや質を追求することによって得られる喜びがあることを教師は認識していると考えられるが、ある時点で音楽の「質」から人間教育へとシフトする傾向があることが明らかとなった。これは、音楽を追求することで得られる喜びに至る前に、授業時間数の問題、クラス単位での集団指導であること、そして教師自身の音楽指導に対する自信のもてなさを背景として、表面的な内容に向かわざるを得ない現状を表している。一方で、音楽家による専門教育においては、演奏(表現)する者としてテクニックの意味や「聴く」ことの重視が求められており、音楽の背景にある様々な知識がすべて統合され、バランスを保って機能することで音楽の表現が可能となる、と考えられていた。これらは、音楽科教師と音楽家の指導観の特徴的な差異といえる。 くわえて、小学校担任教師と音楽専科教師の価値観の比較研究によって、「学校教育」に位置付けられた音楽科教育においては両者が似通った指導観を把持していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小学校教諭(音楽専科および全科担任)と音楽の専門教育に携わる音楽家に対するインタビューや実際の音楽授業のフィールドワークによって、それぞれの音楽指導観の解明が進行している。 平成26年度に実施した研究から、知識や技術がなければ音楽を楽しむことができないことや質を追求することによって得られる喜びがあることを教師は認識しているものの、ある時点で音楽の「質」から人間教育へとシフトする傾向があることが明らかになった。これは、音楽を追求することで得られる喜びに至る前に、授業時間数の問題、クラス単位での集団指導であること、そして教師自身の音楽指導に対する自信のもてなさを背景として、表面的な内容に向かわざるを得ない現状を表している。つまり、「ある時点」とは、教師の音楽的な能力によって規定されるものと考えられる。 一方で、音楽家による専門教育においては、演奏(表現)する者としてテクニックの意味や「聴く」ことが重視され、音楽の背景にある様々な知識がすべて統合され、バランスを保って機能することで音楽の表現が可能となる、と指導者が考えていることが明らかとなった。これらは、音楽科教師と音楽家の指導観の特徴的な差異といえる。 以上の通り、小学校における音楽専科と全科担任教諭の指導観、および専門教育に携わる音楽家のもつ指導観の比較研究については順調に計画を遂行している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、音楽分野の専門家と並行して、同じく芸術の質を追求する美術家に焦点をあて、芸術に対する価値観および指導観を明らかにするべく、インタビュー調査とフィールドワークを開始する。また、さまざまな経歴をもつ小学校音楽教師へのインタビューやフィールドワークによる調査を引き続き行い、複数の分野における音楽家(演奏家)を対象とした調査研究も併せて行う。くわえて、平成27年度には芸術の価値および学校で教えるべき芸術について明らかにするべく、小・中学校の教師に対してアンケート調査を予定している。 学校教育における音楽科と専門教育の教育は条件が異なることは自明であるが、教師・指導者が教育において用いるかれらの価値観を照らし出すこと、そして芸術を扱う教科としての音楽科で、何を教えるべきなのかを再考することの必要性への認識が、本研究の基本的な動機となっている。したがって、分野が異なる芸術家が芸術の質や価値をいかに捉えているのかについて、平成27年度はさらに追及を行う。具体的には、美術関係では、東京芸術大学の佐藤時啓教授および京都造形芸術大学特任准教授の名和晃平氏に研究協力の内諾を得ており、調査を開始する。 また、本研究の過程において、研究の進捗状況について国内研究者から助言を得るものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に購入を予定していたノートパソコンやビデオカメラ等については、平成26年度中は所属大学(就実大学)の備品を一時的に借用し、購入を平成27年度に持ち越すこととした。ただし、研究代表者が所属先を変更したことにより、平成27年度に購入する必要がある。 また、人件費については、年度をまたがってインタビュー調査を実施しており、収集した口述データの文字起こし等にかかる人件費は平成27年度に請求する予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
「理由」において述べた通り、研究代表者が所属先を変更したことにより、平成27年度に実地活動・移動用ノートパソコン、ビデオカメラ等を購入する。また、平成27年度には公立小・中学校教諭へのアンケート調査を予定しており、質問紙の印刷費、往復郵送費、データ入力および分析にかかる謝金が必要である。フィールドワークについては、平成26年度から平成28年度まで継続して小学校、音楽および美術の専門教育等、さまざまなフィールドで実施する予定であるため、関連する旅費、成果発表のための出張費用が必要である。くわえて、データを保管するための記録用メディア、フィールドワークと併せて行うインタビュー調査における口述データの分析を行うためのソフトの購入を予定している。
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