研究課題/領域番号 |
26381247
|
研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
千葉 胤久 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (90333765)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 道徳教育 / 内容項目 / 哲学 / 倫理学 |
研究実績の概要 |
現行の学習指導要領に「道徳の内容」として示されている内容項目のうち、「節度・節制」、「自律・自主」、「友情」、「思いやり」を重点的に取り上げ、それら内容項目に関連する哲学・倫理学的諸見解を参考に考察することによって、以下のことを確認することができた。 「節度・節制」に関しては、プラトンの魂の三部分の調和説、アリストテレスのエウダイモニア論・中庸論を参照することで、「節度・節制」とは、たんに欲望を抑制することではなく、自らの幸福を実現するために不可欠な手段として価値をもつものであることを確認し、「節度・節制」が自己の幸福と結びつくことを児童・生徒が理解できるような指導が重要であることを確認した。 「自律・自主」に関しては、「自律」が積極的自由という意味での自由を意味することに着目し、「自律」を自由の問題として児童・生徒に考えさせることの重要性について考察を深めた。さらに、自律としての自由には、自律ゆえに責任が伴うのであるから、「自律・自主」は自由と責任の問題として考察されるべき内容をもち、責任・応答という観点から「自主」の意味を考えさせる必要性があるという見解を得ることができた。 「思いやり」に関しては、他者への共感がその基礎にあり、他者への共感を有することができるためには、互いに他者のありのままの存在を認め、他者が共に存在することそのことを認め合うことができることが必要であるということ、そしてそのことの重要性を児童・生徒が自覚できる指導が児童・生徒の「思いやり」の発現につながると期待できることを確認した。 「友情」に関しては、主にアリストテレスのフィリア論を参考に、「相手にとっての善を願うこと」が「友情」の本質的内容をなすこと、自分にとっての利益を与えてくれる相手を大切にするつきあいを越えた友情のあり方があることを指導の中に取り入れることが重要であることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「節度・節制」、「友情」に関しては、それらの内容項目の明確化の研究成果を、教職大学院における道徳教育関連の講義および教員免許状更新講習などを通じて、小・中学校の現職教員に提示し、道徳授業の改善の検討に活用してもらうことができた。また、小・中学校現職教員の視点からの意見をもらい、「内容項目の明確化」の効果を検証するとともに、それらの意見を参考に、道徳授業の内容の充実により役立つ「内容項目の明確化」を図ることができた。 一方で、「自律・自主」、「思いやり」に関しては、大学での講義において研究成果を活用することはできたものの、教職大学院の講義や教員免許状更新講習において主題的に取り上げて活用するにはいたらなかった。また、研究内容を当該年度中に論文のかたちで発表するにはいたらなかったため、研究の進捗状況としては、やや遅れていると評価すべきであると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
個々の内容項目の内容理解をより深めるために、取り上げる内容項目をより精選して研究を進めていくこととする。また、平成26年度末に改正が告示された新学習指導要領の内容も考慮しつつ研究を進めていくこととする。 平成27年度は、新学習指導要領に示されている内容のうち、「C.主として集団と社会との関わりに関すること」および「D.主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること」に含まれる内容項目に関して、哲学・倫理学的諸見解の収集・整理・考察を行う。「C.主として集団と社会との関わりに関すること」に関しては、「遵法精神、公徳心」、「公正、公平、社会正義」、「社会参画、公共の精神」を取り上げて、その意味内容の明確化を図る。特に「公正、公平、社会正義」を重点的に考察する予定である。「D.主として生命や自然、崇高なものとの関わりに関すること」に関しては、「生命の尊さ」および「自然愛護」を取り上げて、その意味内容の明確化を図る。特に「生命の尊さ」を重点的に考察する予定である。 平成28年度は、前年度までに十分に内容の検討を行うことのできなかった内容項目があることが予想されるので、平成28年度前半は、それらの内容項目の概念内容を明確化する作業を継続する予定である。後半では、これまで重点的に取り上げて考察を加えてきた内容項目に関する研究成果を中心に内容項目解説集を作成する作業を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
資料整理などのために謝金の使用を予定していたが、平成26年度は研究代表者自身で資料整理を行うことが可能であったため、最終的に謝金を使用しなかった。次年度使用額は、主にこのために生じたものである。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究遂行に必要な文献資料として哲学・倫理学関連図書、道徳教育関連図書を購入するために使用するほか、日本道徳教育学会大会などに参加するための旅費として使用する予定である。
|