『中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』においては、「道徳」の授業で取り扱うべき「内容」として22の内容項目が示されている。本研究の目的は、これら22の内容項目を「道徳」の授業で取り上げる際にはどのようなことに留意すべきかを明らかにすることである。本研究においては、各内容項目に関する哲学的・倫理学的な諸見解を参考に考察を行い、その考察において得られた知見をもとに「道徳」の内容項目の解説集を作成した。研究最終年度である今年度は、これまでの研究の成果に「道徳」の教科化にともなって行われた内容項目の改変に応じた修正を加えるとともに、これまでに重点的に取り上げることのできなかった内容項目に関しても検討を加えた。 学習指導要領において定められている内容項目の検討を行う際、その多くの場合において、ケアの倫理において強調される「ヴァルネラブルな存在としての人間」ということに着目することが重要であるということを、今年度の研究においては明らかにすることができた。人間はヴァルネラブルなもの(傷つきやすいもの、脆弱なもの)であり、そのようなものとして互いに支えあうことなしには生きることのできないものであるという人間理解を基本にして、各内容項目の検討を行うことが必要なのである。また、「C 主として集団や社会との関わりに関すること」に含まれる内容項目に関しては、日本の公共哲学において強調される「民による公共」という視点から検討を加えることが肝要であることを指摘しえたことも今年度の研究成果の一つである。 本研究で得られたこれらの成果は、教職大学院における授業や教員免許状更新講習などにおいて活用され、授業・講習に参加した現職教員からは、各内容項目に関して授業を構想する際に新たな発想を与えてくれるものとして一定の評価を受けることができた。
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