本研究の目的は、教師の専門性開発の観点から家庭科におけるシティズンシップ教育の実践枠組みを理論的・実践的に考察し精緻化することである。家庭科におけるシティズンシップ教育では、生活を対象にした基礎的知識とスキル、生き方、社会参加など現代社会に生きる力が育まれる。しかし、家庭科が扱う生活課題はグローバル社会の進展とともに複雑になり、授業には、高度な教師の専門性が必要となる。教師の専門性が開発され、充実した授業ができる実践枠組みが理論的・実践的に明らかにされるならば、質の高い家庭科教育実践と教師の専門性が担保されるのではないか。 本研究では、教師の専門性に関する国内外の調査と家庭科実践分析を通して、教師の専門性を開発する家庭科シティズンシップ教育の実践枠組みを理論的・実践的に明らかにした。これまでも家庭科は、個人と家族の幸せを大切にしてきた。グローバル社会の進展ともに機能的(適応的)側面、すなわち、経済的観点が重視され、個人のクオリティ・オブ・ライフがときに軽視される事態が生まれている。政治と経済のシステムが生活世界に入り込んでいる。家庭科では、批判的(創造的)側面、すなわち、政治的観点と市民的育成が求められ、感性と理性を結びつける総合的で全体的な学び(分野の拡張)、他者と協同しながら考え知識理解を深める(現実世界の問題の拡張)が実践枠組みに組み込まれる。2030年に向けて「教育を通じて生活を変えること、教育が発達の主な原動力、誰も置き去りにしない」ことを念頭に置き、どのような場を作るか、どのような空間構成にするか、学校や他教科や地域とつなげる(Engaged)方略が有効である。授業は、顔が見えるような空間構成にして、話し合っていることを可視化・共有化できるようにする。生徒の自律と自立を支えるのは、「目的に向かうこと」だけでなく、「すごす」ことにあることも留意したい。
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