今年度は、高等学校の公民科の新しい科目である「公共」において、本テーマに即した持続可能な社会のための教育をどのように展開するのかについて、教材開発、授業研究を行った。そして、高校段階においてそのような授業や単元を設計することを見通して、小学校および中学校での教育を積み上げていくカリキュラムを構想した。 具体的には,研究協力者と共に,国立マンション訴訟などを教材として,「現代社会」において,景観利益と経済的利益の葛藤に関する討論学習の授業を実施し,分析を行った。この実践は,今日の学校教育で焦眉の課題となっている,市民性の教育として,地域社会,国家,グローバルな社会の形成者として,その社会のあり方をめぐる葛藤や対立についての議論に自分の意見を表明し,社会組織を司る政治に参加する能力の指導につなげることを目的とした。この実践を通して明らかとなったことは次の点などである。 ①子どもの権利として自分の意見を表明する能力だけでなく,他者の意見を受容する能力も目標として重要となること。②このような能力は一人で学習することでは獲得することはできず,集団の相互作用や集団的な学習が必要であること,③このような能力の評価に際しては,能力の低さによって排除されるということがあってはならないことと能力の高低という尺度だけでなく幅の広さによっても評価される必要があること,④多様な見方考え方が尊重されることが大切なので,実質的な価値を直接教えて,評価することはできないし,すべきではないが,多様な価値を尊重するための民主主義の実現するための手続き的な価値については,目標とすることができるし,その目標に準拠した評価も必要であること。
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