研究課題/領域番号 |
26381270
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研究機関 | 岡山商科大学 |
研究代表者 |
伴 恒信 岡山商科大学, 経営学部, 教授 (70173119)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 民主主義 / 教育 / 難民危機 / 歴史的背景 |
研究実績の概要 |
平成26年度-平成28年度本研究課題「民主主義理念と次世代市民の道徳性育成の歴史的展開と将来像に関する研究」を始動させて2年目の今年度は、欧米における民主主義の理念が急速な金融のグローバル化とネット社会の進展による国民生活基盤の崩壊、および難民・移民の大量流入とテロの脅威の拡散という差し迫った国際的社会リスクの前に揺らいできているその実態と歴史的経緯及び将来展望を探ることを中心課題に設定した。 まず平成27年9月、西欧社会における民主主義と教育との関係性に係る教育研究の最新動向を把握すべくブダペストのCorvinus大学で開催されたヨーロッパ教育研究学会に参加し、ヨーロッパ各国から参集した約2500名余の教育研究者達が報告する民主主義、シティズンシップ、ESD、ICTなどをテーマにしたセッションで研究上の情報交換を行った。この会議の開催時期はまた、主にシリアを中心とする中東やアフリカから地中海を渡ってヨーロッパ入りした難民・移民数千人が国際列車の発着するハンガリーのブダペスト東駅に押し寄せてきた時期とも重なり、東駅通過の全列車の運行が停止され多くの難民が駅周辺でテントを張って滞留している「歴史的事件」の情景にも遭遇したのである。 上述の学会に続くプラハで開催された国際民主主義フォーラム(Forum 2000 Conference)では、地元のチェコ共和国首相をはじめ世界各国の元首脳や大臣、ヨーロッパ議会議長、独フォルクスワーゲン社社長などといった名だたる著名人に加えて世界からの研究者が招待され、「民主主義と教育」を巡って、ちょうどヨーロッパ諸国で火急の問題となっていたシリア難民受け入れや中国の覇権主義的台頭の影響、各国内外の種々の宗教対立など国際社会の現状を踏まえた活発な論議が展開された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先述のように平成27年9月のヨーロッパ教育研究学会の際に遭遇した「難民危機」は、人権と民主主義を統合理念に掲げ、EU域内の移動の自由を定めたシェンゲン協定を有するEUの存在自体を大きく揺るがす事態へと発展していった。ヨーロッパに流入した難民の数も、2014年1年間に21万9千人だったのが2015年にはそれを遙かに凌ぐ101万人に及び、フランスでは国民戦線、ドイツ「ドイツのための選択肢(AfD)」、オーストリア自由党など各国で難民を排斥しEUを拒否する民族主義政党が躍進している。その後に起こった2015年11月のパリ同時テロ、2016年3月のブリュッセル地下鉄空港襲撃テロとも相俟って、イギリスのEU離脱を問う国民投票の実施など、もはやEUの存立基盤を脅かすまでに至っている。こうしたヨーロッパでの政治潮流は現在アメリカ大統領予備選にも、エリート・既得権益層への不満や異議申し立てとなって「トランプ旋風」や「サンダース人気」を引き起こし、代表民主主義の機能不全を問う世界的なポピュリズムの風潮をも生み出しているのである。 これら欧米社会が戦後長らく擁護してきた人権尊重の価値と民主主義理念を瓦解させつつある現実は、特に平成27年度に入ってから人々の予想を遙かに越える形で顕著になってきた動向である。しかし既にこうした事態をもたらす社会的背景を、冷徹に歴史的にも遡及しながら解明しようとしてきた欧米の碩学が存在する。フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド、フランス経済学者・思想家のジャック・アタリ、イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズ、アメリカの歴史学者マーク・マゾワーなどの著作を参考に、新たに出現してきた欧米社会の諸種の危機的現象の背後に潜む流れを析出する作業に当たる必要に迫られている。
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今後の研究の推進方策 |
現在世界で進行中の大きな社会的潮流を、その歴史背景をも踏まえて掌握するのだけでも大変な時間と労力を要するものではあるが、かかる作業を通して真に欧米の民主主義の理念の社会的布置とその教育的含意を明確にできるのである。今年度も引き続き、文献研究を通じての歴史社会的水脈の発掘と欧米での現地でのフィールドワークによる調査研究に携わっていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として47,084円が残ったが、3年計画の本研究プロジェクトの中で3年目にまとめて有効に活用できる方法を考えるために敢えて残すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
実施状況報告書の叙述にもあるように、昨年度、にわかに増大した難民およびテロの危機に欧米各国がどのように立ち向かおうとしているのか、現地での種々のフィールドワークに活用したいと思っている。
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