平成26年度-平成29年度本研究課題「民主主義理念と次世代市民の道徳性育成の歴史的展開と将来像に関する研究」の底流に存在する基本的仮説は、人権、民主主義、法の支配という欧米社会で歴史的に形成されてきた理念と価値観が今日のグローバル化の趨勢の中で地球規模の普遍的な価値へと昇華されていくということであり、その将来社会を担う次世代育成のための教育の萌芽を現実の欧米社会の道徳的実践から読み取っていこうとするものである。ところが、平成28年に生起したイギリスの国民投票によるEU離脱決定や同年11月のアメリカ大統領選挙でのトランプ氏の勝利といった世界の人々の予測を覆す事態は、その後の欧米社会に沸き起こる自国第一主義や排外的なポピュリズムの先駆けとなるものであり、こうした風潮の蔓延の中で欧米各国が社会理念に掲げてきた人権尊重と民主主義の精神的伝統が瓦解の危機に晒されることとなったのである。 平成29年度は、上述した世界政治の混迷状態から少しでも将来展望に繋がる知見や情報を得ようと、フィールドワークとしては前年度のイギリス・ロンドン市内および近郊の現地視察調査に続き、29年度は9月に同じアングロ・サクソン系の価値観を共有するオーストラリア・メルボルンおよびブリスベンの研究者との協議と学校視察調査を企画し実施した。また、10月にはチェコ共和国プラハで開催された国際(民主主義)フォーラムに参加して世界各国からの参加者と世界の民主主義の進展と背景に関する情報交換と協議を行い、続いてブリュッセルのEU本部のシティズンシップ事業担当者を訪ねて、難民問題とポピュリズムに翻弄されるEU諸国の現況とEUとしての今後の対応等について情報収集と意見交換を行った。
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