本研究では,数学教師志望学生の専門的力量形成,特にこれからの教師像として期待される「学び続ける教師」にとって不可欠な省察に焦点を当て,彼らの省察が大きく変容する機会である教育実習に注目し,そこでの授業実践についての省察の実態やその変容過程,さらには変容の要因を明らかにすることを目的とした。 平成28年度も引き続き,教職大学院での教育実習における学部新卒学生の省察の実態などを明らかにするための事例研究を行った。特に,省察の過程や時間性を分析の観点とし,また,ベテラン教師の省察との比較分析も行った。 省察の過程を観点とした分析結果として,幅広い事実を把握してはいるものの,漠然とした事実把握に留まり,分析も数学学習に関する要因にまで及ばず,そのため,一般的な教授法に関する改善策の提起に留まる傾向がみられた。また,他者との協議の前後で,改善の段階に関する変容がみられたものの,他者の考えをそのまま受け入れる傾向があった。 省察の時間性を観点とした分析結果として,直後の省察の特徴として,授業者としての感情や教授活動が主な内容であり,子どもの学習活動の詳細や,教授活動の問題点の分析にまでは及んでいない傾向がみられた。一方,時間を置いた省察の特徴として,事実に基づく問題点の把握や,その要因の分析,自身の数学教育観についての反省にまで及ぶ点がみられた。そうした変容の要因として,授業実践からの時間的・空間的距離,授業実践に関する客観的事実の直視,授業実践や子どもの反応を通した意図されたカリキュラムの理解が推察された。
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