本年度は、昨年度までの検討から明らかとなった知的障害者の運動機能に対する関連要因の一つである抑制機能に注目し、主にその改善可能性について検討することにより、知的障害者における運動面の困難についての教育支援法の手掛かりを得ることを目的とした。測定参加者は、これまでと同様に特別支援学校児童生徒や知的障害児施設の知的障害児・者約50名である。昨年度から実行機能の中でも抑制機能を評価するための課題として用いてきた視覚キャンセリング課題において、ターゲット刺激の名称を呼称させつつ課題を遂行させた場合と、従来と同じく特に呼称を行わせることなく課題を遂行させた場合の成績を比較したところ、知的障害者においては両条件の成績に明らかな差異は認められず、刺激を言語化する方略が抑制機能の改善をもたらさないことが明らかとなった。一方、定型発達児においては、言語能力の高い児ほど言語化方略によって、視覚キャンセリング課題の成績が高くなることが明らかとなった。こうした検討に加え、本年度は抑制機能の他にも、運動機能との関連が指摘されている実行機能の他要素である視覚性ワーキングメモリを取り上げ、記銘材料の提示方法が記憶容量に及ぼす影響についても検討した。その結果、知的障害者においては記銘材料を同時的に提示した場合の方が、継次的に提示する場合よりも記憶課題の成績が上昇することが明らかとなった。これは知的障害者に対する効果的な指導法を考える際に有用な結果である。
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