本研究は、知的発達障害、中でもダウン症者の障害特性を明らかにし、その支援システムを構築することを目的とした。 学齢期から成人期までのダウン症者500名を対象に「ダウン症児者の実態に関する調査票」を配布し、検討を行った。調査項目はICFの「心身機能・身体構造」「活動と参加の9領域」などを参考に「認知発達」「行動傾向・疾患」「老化・退行症状」「心身機能」とした。279名(回収率55.8%)の回答を基に分析を行ったところ、認知機能の発達に関しては、日常的な経験の繰り返しで身につけることのできる項目は定着が良く、学習の機会を設定するなどの計画的な指導を行う必要のある内容は獲得に困難が見られた。心身機能に関しては、高次認知機能、音声発話の機能が低く、睡眠機能、摂食機能、排尿機能、随意・不随意運動機能は比較的高いことも明らかになった。また、認知機能及び健康に関する特徴を把握したところ、ダウン症者には一旦獲得した能力が何らかの原因で低下し、獲得前の状態に戻るという「退行」の症状が現れることが明らかになった。 ダウン症者の退行について、認知、健康の特徴を踏まえ、老化・退行タイプ、身体疾患退行タイプ、精神疾患退行タイプ、急激退行タイプの4タイプを抽出した。それぞれの退行タイプ別に支援プログラム(運動プログラム、コミュニケーションプログラムなど)を作成し、一定の期間、各タイプのダウン症者に提供したところ、それぞれで一定の変化・改善が見られた。今後はダウン症者の退行症状に関するアセスメントの開発と支援プログラムの有効性の検証をさらに進める必要がある。
|