本研究では、既存の障害児支援システムにおいて、就学前後で引継がれた支援ニーズに関する情報を、専門性の異なるそれぞれの機関においても、一貫した解釈のもと、活用するために、「どのような情報」を「翻訳すべきなのか」を検討した (研究1から研究3)。また実際に「翻訳」された情報を、就学前後の引継に使用し、その有用性について検討した。さらに、異なる専門性を備えた機関が、連携のもとで協働する際に、情報の「翻訳」において留意すべき点を明らかにし、公式化の手続きの課題を整理した(研究4)。 結果、就学前(幼稚園)において支援を必要としていた場面は、「集団活動」「断続的活動」「対人活動場面」「設定保育場面」「活動切替場面」の5つの場面に類型化された。 また、この結果をもとに「子どもが必要としている支援を提供するためのチェックシートを作成し、就学後、8ヶ月が経過した学校での様子と照合したところ、概ね就学前後で関連するニーズがある事が明らかになった。しかしながら、このチェックシートは、あくまでも幼稚園時の子どもの行動の様子を評定し、そこから重点的に支援を必要としている場面を特定するものであった。したがって、行動に関わる支援や配慮への情報の翻訳は可能ではあったが、教科等の学びに対する支援や配慮についての翻訳には十分な成果は得られなかった。 なお公式化(現場での実用化)には、入学後間もなくの段階で、確実に担任に情報が引き継がれるシステムがなければ、速やかに情報が子どもの支援に活用されないことがあった。 さらに今回、有用性についての肯定的意見は、調査対象の半数程度であった。しかしながら、幼稚園で支援が重点的に必要であった場面に類する場面で、就学後にも継続的に支援が必要とされていた児童が、一定程度存在していたことから、比較的早い段階で教育における合理的配慮を検討することは可能であることが示唆された。
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