脳のイメージング法の進歩により、吃音者の脳にさまざまな異常が発見されてきた。しかし、この成果はまだ吃音の検査や治療法の開発には結びついていない。そこで、本研究では吃音者の言語処理の特徴を明らかにし、さらに、その特徴を簡易に評価できる方法を開発することを目的とした。 吃音者13名を対象に、4語から成る日本語の文章を視覚的に提示し、4語目に生じる事象関連電位を記録した。その結果、意味的逸脱のある語に於いて、正常話者ではN400が惹起するが、吃音者ではN400が惹起しないことわかった。吃音者は意味的逸脱のある文章に対してN400が減衰するだけでなく、700ミリセカンド周辺に陽性方向の電位の変化が生じることも明らかになった。これらの結果から、吃音者の言語処理には、正常話者とは異なった神経活動が生起していると考えられた。また、吃音者の言語処理は正常話者に比較して、時間的に遅い処理が伴っている可能性が推測できた。 次に、吃音者の言語処理の遅れをERPよりも簡易な計測方法で計測することで、吃音者の特徴を生理学的に簡易に評価する方法が開発できると考えた。そこで本研究では、吃音者5名を対象に、300Hzのサンプリング周波数のアイトラッカーを用いて、文の黙読時の視線を計測した。N400を記録した文章を利用し、文の4語目に生じる停留時間を計測した結果、吃音者の停留時間は非吃音者に比較して長い傾向にあることが示された。しかし、結果は傾向に留まり、統計的に有意な差は認められなかった。アイトラッカーを用いた視線計測により吃音者の言語処理を評価するためには、提示刺激を工夫する必要があると考えられた。さらに研究の継続が必要な課題である。
|