本研究Mの目的は、障害者権利条約を基礎とするインクルーシブ教育を進めるために、比較教育方法学的に学校教育改革の課題を明確にし、「合理的配慮」の提供を含めた学校教育の再構築をはかることである。本年度は、国際的動向、知的障害教育の歴史的分析、学校をフィールドとした実践研究の3点について検討を深めることができた。 第一は、障害者権利条約についての国際動向の分析である。まず、権利条約採択後の国連の動向を分析し、「共生社会」をめざし、障害のある人たちの社会参加を一層促進するため国際的な動向を確認した。特に、2016年9月、障害者権利条約に基づいて設置された国連の障害者権利委員会の「一般的意見№4」(「インクルーシブ教育への権利」)に着目し、権利条約締約国への教育条項の具体化のあり方と課題を中心に、この一般的意見の至る経過とその内容の吟味、分析を行うことができた。その結果、インクルーシブ教育への国際的な動向に照らしてわが国の課題への示唆を得ることができた。 第二は、特に、合理的配慮とともに特別支援学校・学級での特別な指導・支援の位置づけについて配慮することが課題となるという認識のもと、特別支援教育の中で内容・方法において検討が必要となる知的障害児教育について、知的障害の概念の検討をおこない、歴史的に教育課程・教育実践の蓄積を整理してきたことである。この成果をもとに、知的障害教育の教育課程編成について次期の科研費研究への申請へとつなぐことができた。 第三は、学校教育の構築と教育方法の探究のための実践的研究として、奈良教育大学附属学校園での「平成28年度発達障害早期支援研究事業」の実施に参加し、通常学校におけるインクルーシブ教育の課題、通常学級における発達障害の可能性のある子どもたちへの支援や合理的配慮の具体化について実践的に検討し、報告することができた。
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