研究課題/領域番号 |
26381333
|
研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
黒田 美保 福島大学, 子どものメンタルヘルス支援事業推進室, 特任教授 (10536212)
|
研究分担者 |
辻井 正次 中京大学, 現代社会学部, 教授 (20257546)
川久保 友紀 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (40396718) [辞退]
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 自閉スペクトラム症 / 女性 / 性差 / 自己マネージメント / 高機能 / 青年期 / グループ / プログラム開発 |
研究実績の概要 |
昨年度に続き、高機能ASDの女性の特性について調べるとともに、キャンプにおいて3日間の女性グループを実施し、グループの効果や改善点について調査した。 (目的)ASDの女性の他者の感情や考えへの認知、すなわち「心の理論」について、ASDの男性との比較を通して特性を検討する。同時に、ASDの女性特有の特性をもとに自己マネジメント・プログラムを作成実施し、プログラムの内容について検討する。 (方法)心の理論研究の参加者:ASD成人60名(男性41名,女性19名)。手続き:他者の感情や考えを理解することについて調べるため、高次の「心の理論」課題(Motion Picture Mind Reading test; MPMR)(Wakabayashi& Katsumata, 2011)を用いて、その正答率を調べた。また、同時にASDの特性について調べるために、ADOS(Autism Diagnostic Observation Schedule),ADI-R(Autism Diagnostic Interview- Revised),AQ(Autism-Spectrum Quotient)を用いて,ASD特性を調べた。グループ参加者:小学校4年生から大学2年生までの女性6名。手続き:3日間のキャンプで実施し前後で保護者にSDQを記入してもらった。 (結果)心の理論課題MPMRの正答率と言語性IQやASD特性の相関に性差がみられた。女性のほうがより定型発達に近いメカニズムによって他者理解をしていた。グループではSDQに変化はみられなかった。 (考察)ASDの女性では他者を理解するときに定型発達に近いメカニズムを用いていると考えられた。また、介入については、数値的な変化はみられなかった保護者からはポジティブな変化が報告され、女性の特性に配慮したプログラムに一定の効果があると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ASD女性のためのプログラムの開発とその基盤となるASD女性の特性を調べるという本研究の目的のうち、後者はすでにほぼ達成されていると考えられる。自己マネジメント・プログラムの開発は、あと1年の中でさらに改良が必要である。 ASD女性の特性については、「心の理論」における性差をみいだすことができた。具体的には、他者の感情や考えを理解する上で、ASDの女性は会話やジェスチャーといったコミュニケーションの能力を基盤としている一方、ASDの男性は言語性の知能を基盤としていた。「心の理論」の研究において、性差に関する所見は世界的にみてもほとんど報告がない。本研究の結果については積極的に報告をしていきたいと考えている。 平成27年度には、高機能ASDの青年期・成人期の女性に特化した自己マネジメント・プログラムの開発する予定であったが、それは達成できた。現在の研究および他の先行研究にも基づいて,女性のASDにおいては,「ASD特性の理解(強みおよび弱みを含めて)」「自尊感情の回復」「日常生活スキルの向上(身だしなみ,片付けのコツ,スケジュール管理,生活上のミス防止など)」「感情の調整」などをテーマにいれたプログラムを作った。ASD女性のグループをASD児者のキャンプの中で3日間の集中プログラムという形で実施した。ただ、もう少し年齢の高い成人女性での継続的なグループを実施することも計画していたが、実施できなかった。これは、参加者の時間的な都合による。高機能の成人女性は働いていたり結婚して家庭があるため、グループに参加することが難しい場合が多かった。平成28年度は、少人数か個人であっても、成人女性に対して継続的なプログラム介入を実施する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
H28年度は,H27年度に引き続き、性差についての知見をさらに詳細に検討し、論文化する。また、ASD女性の自己マネージメント・プログラムの開発については、キャンプ形式での女性グループを実施すると同時に、年齢層の高いASD成人女性を対象とした6~8回の継続的なグループあるいは個人介入を実施する予定である。当初の平成28年度の計画にしたがい,ASDの女性に特化した支援プログラムの完成を目指す。以下2つの方法において、ASD女性のための自己マネージメント・プログラムを完成させる。 ①ASD児のキャンプにて。小学生高学年から大学生までの青年期の女児5~6名を対象に,3日間の集中プログラムを行う,内容は「ASD特性の理解」「身だしなみやプライベートゾーンの理解」「感情コントロール」をテーマとしてグループを実施する。グループの前後で,保護者には子どもの強さと困難さアンケート」 (Strengths and Difficulties Questionnaire : SDQ)を実施すると同時に、子どもからはQOLや面接を行って,グループの効果検証を行う。 ②ASD女性のグループを6~8回のセッションからなる継続プログラムとして行う。1回90分を予定。「ASD特性の理解(強みおよび弱みを含めて)」「自尊感情の回復」「日常生活スキルの向上(身だしなみ,片付けのコツ,スケジュール管理,生活上のミス防止など)」「夫婦や恋人関係を含む対人関係の調整」をテーマにグループまたは個人で実施する。プログラムの実施前後に,WHO-QOL24検査と面接などを実施し,プログラムの効果を測定する。また,プログラムについての感想を尋ね,プログラムを完成させる。
|