研究課題
本研究では、手書きによる筆記行動が中途視覚障害者の学習に有効であることを実証することを目的とした。平成29年度は、国立障害者リハビリテーションセンター理療教育課程在籍者を対象にした教育心理学的研究として、1.初年度在籍者の漢字力実態調査の継続、2.筆記行動が学習効果に与える影響の検証を実施した。1.については、漢字検定2~10級の問題40問(1問1点)の手書き筆記を行い、2013年度から2017年度まで99名中78名の結果を得た。平均22.5±7.6点、中央値23.0点の結果を得た。研究期間中、同様の結果が得られたことから、当課程在籍者の初年度の実態を表すと考えられる。大卒でも、全盲となり筆記行動から離れると、同検定6級レベル(小学校5年修了レベル)まで落ち込むケースがあることがわかった。2については、総計26名(平均36.5±1.8歳, 弱視)を対象に、事前知識のない医学英単語20語を、聴くだけで記憶する学習Aと、聴きながら書いて記憶する学習Bを交互に行い、それぞれについて、直後の短期記憶と、1週間後の長期記憶を測る一人当たり4回の口頭試問を行った。その結果、短期記憶では聴くだけの学習Aの正答率が高いものの、1週間後の正答数が64.4%まで落ち、筆記を併用した学習Bでは80.0%であった。長期的には手書きの効果が高いことが、全体的な傾向としてみられた。次に、医学的研究においては、中途視覚障害者15名、晴眼者11名を対象に、アイヌ語とフィンランド語20語の学習において、手書きによる筆記行動の効用と、その神経基盤を明らかにすることを目標とした。MRI撮像の解析から、視覚障害者群で、両側の運動野を含む前頭頭頂葉から後頭葉に亘る広い領域で、晴眼者に比して強い神経活動が見られた。特に、左前楔状回を中心とする視覚領域では、手書き条件で、非手書き条件より強い神経活動が観察された。
すべて 2018
すべて 学会発表 (1件)