研究課題/領域番号 |
26390001
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
野々村 美宗 山形大学, 理工学研究科, 准教授 (50451662)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体表面 / アパタイト / でん粉 / フラクタル / 濡れ |
研究実績の概要 |
食感センシングシステムにおいて歯モデルとして用いるために、ヒトの歯を模して表面に階層性の凸凹構造の刻まれたフラクタルアパタイトの開発に取り組んだ。すなわち、アルキルケテンダイマー(AKD)という油脂の構築するフラクタル表面を写し取った石膏を鋳型として、リン酸カルシウム/高分子ペーストの表面に階層性の凸凹を転写、水中でインキュベートしてハイドロキシアパタイト・高分子複合体からなるフラクタルアパタイトを調製した。6種類の高分子をバインダーとして20以上の試作品を調製し、凸凹の転写性・強靭性を評価したところ、ハイドロキシアパタイト粒子をでん粉で結合したフラクタルアパタイトが最も優れていることが明らかになった。走査型電子顕微鏡を用いてその表面状態を観察したところ、数百nmのアパタイトの棒状結晶が集合して、数μm~数十μmの凸凹を形成していることが確認された。幾何学的な階層性を示すフラクタル次元は約2.3次元で、階層性の凸凹を刻むことに成功したことが示された。フラクタルアパタイト表面を水が濡れ広がる様子を高速カメラを用いて観察したところ、凸凹の存在によって濡れ広がりと浸透の速度が劇的に速まっていることが確認された。このように、幾何学的構造によって表面物性が変化するメカニズムは、表面エネルギーと流体力学的な特性に着目した物理モデルに基づいて説明した。ただし、摩擦評価に用いるためには力学的な耐久性が低かったことから、本年度開発したフラクタルアパタイトをそのまま歯モデルとして用いることは難しいことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルキルケテンダイマーの構築するフラクタル表面をリン酸カルシウム/高分子ペーストの表面に転写してハイドロキシアパタイト・高分子複合体からなるフラクタルアパタイトを調製することに成功した。得られたハイドロキシアパタイト・高分子複合体の表面にはヒトの歯と同じように階層性の凸凹構造が刻まれていたことから、当初の目的は達成されたと考えている。ただし、歯モデルとして利用するためには力学的耐久性が低く、新たに高強度フラクタルアパタイトを開発しなければならない点が今後の課題である。しかし、申請者らは予備的検討により、歯モデルとしての使用に耐えうるフラクタルアパタイトの調製指針を得ているため、概ね順調に進展しているものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は高強度フラクタルアパタイトの開発に取り組む。申請者らはシリコン基板の表面に微細加工を施し、そこにアパタイトコーティングを施すことで目的物の調製を実現する。同時に寒天ゲルからなる舌モデルを完成させ、摩擦・接着特性の評価を行い、食感評価の基礎とする。28年度には当初の予定通り、歯モデルとしたモデルを実装し、食感との関係の評価を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の成果を国際会議(Materials Today Asia 2014)及び国内学会(平成26年度化学系学協会東北大会)において報告したが、国際会議の旅費は同時に発表をした他の研究成果に関する予算から支出されたこと、国内学会は申請者らの所属する山形大学で行われたために、当初計上していた旅費を支出しなかった。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
26年度の検討の結果、モノを食べた時の口腔内の状態をモデル実験において再現するためにはマイクロシリンジポンプが必要であることが明らかになった。当初、計上されていないなかった設備の購入のために次年度使用額を使用する。
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