食べ物の食感を評価するためには口腔内の物理的・化学的環境を忠実に再現したセンシングシステムを構築することが必要である。われわれはこれまでに舌や歯の表面の階層性の凸凹構造を模倣したフラクタル寒天ゲルおよびフラクタルアパタイトを開発してきた。本年度は、モノを食べた時に舌表面で起こる界面現象をフラクタル寒天ゲル表面上で再現することを試み、幾つかの興味深い物理現象を見出した。 (1)舌モデル表面におけるゲルの圧縮破壊 2枚の寒天ゲル表面間に柔らかい寒天ゲルブロックを挟んだ時の圧縮挙動を観察したところ、寒天ゲル表面が平らな時はブロックが滑り出してしまう場合があったのに対して、フラクタル寒天ゲル表面間では、試行したすべての場合に押し潰された。 (2)舌モデル表面におけるエマルションの摩擦 一方で、水の中にノニオン性界面活性剤を用いて食品用油脂のモデルであるトリオレインを分散したOil-in-Water型エマルションを寒天ゲル表面間に挟んだ時は、平らな寒天ゲル間でもフラクタル寒天ゲル間でも、エマルション中に多量の油が配合されている時だけ摩擦係数が低下する潤滑現象が観察された。ただし、フラクタル寒天ゲル間と平らなな寒天ゲル間では顕著な摩擦力の変化は観察されず、フラクタル寒天ゲル間の方が滑り出しの静摩擦力が掘り起こし効果によって大きくなったのみであった。これらの知見は、凸凹構造が舌に加わる力学的刺激や食感に大きな影響を及ぼすことを示唆している。
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