研究課題/領域番号 |
26390002
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
新森 英之 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (40311740)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 金ナノロッド会合 / 光異性化挙動 / 金ナノ構造体制御 / キラル組織体形成 / アゾベンゼン / スピロピラン |
研究実績の概要 |
本研究課題では、異方性を有する金属ナノロッドに光学活性なフォトクロミック分子を導入して、光応答性を示す金属ナノロッド組織体を創製する事が目的である。平成26年度までに可逆的光異性化が可能なジシステイン修飾アゾベンゼン(CysAZOCys)を導入した金(Au)ナノロッド組織体の形成に成功した。この事を踏まえて平成27年度に実施した研究成果の概要は以下の通りである。 1.CysAZOCys導入Auナノロッド組織体の光応答性 CysAZOCysによるAuナノロッド組織化では、局在表面プラズモン共鳴由来の吸収帯の長波長シフトを示すend-to-end型組織体が構築されたことが分かった。この事は電子顕微鏡観察からも支持された。このend-to-end型組織体に紫外光を照射したところ、吸収スペクトルでは300-400nm付近のアゾベンゼン部位の吸収域で変化が観測できたが、円二色性スペクトルには変化が見られなかった。次にCysAZOCysに紫外光を照射してシス化した後に組織化を行った結果、非照射(トランス体)の場合と比較して組織体形成速度の減少が観測できたが、各組織体の円二色性スペクトルには明確な差異が確認できなかった。これはキラル情報の光制御は観測できないが、組織体の光応答性は可能であることを意味する。そこで、フォトクロミック骨格を下記2.のようなスピロピランで分子設計する事とした。 2.リポ酸修飾スピロピラン誘導体の設計・合成 Auと親和性を有する硫黄原子を有するスピロピラン誘導体を合成する為に、アルファ-リポ酸を利用して設計した。これは環状のジスルフィド、及びキラル炭素を併せ持つ。またスピロピランは光照射によってスピロピラン型-メロシアニン型の異性化が可能である。具体的には、2,3,3-トリメチルインドレニンから水酸基を持ったスピロピランを合成し、エステル化によりアルファ-リポ酸を修飾した。ここで得られたリポ酸修飾スピロピランを用いてAuナノロッドの組織化を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に実施した研究成果では計画した通り、まず、ジシステイン修飾アゾベンゼンを用いたAuナノロッド組織体の配列形態の解析を行い、ワイヤー状構造を有していることを立証でき、また、このAuナノロッド組織体の光応答性を分光学的手法によって証明した。更に、組織体のキラル情報の光コントロールを目指して、Auに親和性を持つ新たなスピロピラン誘導体の合成ルートの確立にも成功しているため、現在までに本研究課題はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずリポ酸修飾スピロピラン誘導体のAuナノロッド界面への導入法の最適条件を検討し、得られるAuナノロッド組織体の配列形態、及びアルファ-リポ酸由来のキラリティーの影響を検証する。この際、紫外可視分光法による光学分析や電子顕微鏡観察、電気化学測定等により、配列形態を調査する。また、粒子径分布測定を行い、組織化による平均サイズ変化の確認と分散程度を定量的に評価する。さらに、組織体のキラリティーは円二色性スペクトルによって解析する。 次いで、キラルAuナノロッド組織体のコロイド分散液に光照射を行うことで、その光応答性を詳細に検討し、Auナノロッド組織体のキラル情報の可逆的光コントロールシステムを構築する。この際、繰り返し光応答に伴うスピロピラン部位の安定性が問題となる可能性があるが、導入量や溶媒、温度など様々な光異性化条件を検討することで克服する。
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次年度使用額が生じた理由 |
フォトクロミック分子を導入したAuナノロッド組織体の光応答性実験において、詳細な文献検索により、比較的条件を絞ることができたため、コストを削減できた。また、新たなフォトクロミック分子の合成では効率的な合成法が考案できたため、試薬等の低コスト化が可能であった。
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次年度使用額の使用計画 |
フォトクロミック分子の骨格を変えたことによってAuナノロッド組織体を形成する際に条件の変更や詳細な検討、さらにはAuナノロッド組織体の追加調製が必要となった。従って、翌年度分として請求していたAuナノロッド組織体の光異性化挙動の検討に使用する分析用器具や試薬、及びスペクトル用溶剤などに加え、組織体の配列形態やキラリティーの解析に用いる試薬や器具を追加購入する。
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