研究課題/領域番号 |
26390003
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森川 全章 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10363384)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 非平衡 / 自己組織化 / 高次構造 / 脂質分子 / 機能性色素 |
研究実績の概要 |
本研究は、脂質と色素分子から成る超構造を固体表面上に構築し、効率的な光励起エネルギー移動界面を創製するとともに、その光捕集機能に基づいた分子情報の変換・増幅システムを構築することが目標である。昨年度、アルキル鎖長16の単純ジアルキルアンモニウム塩のスピンキャスト膜を作製し、アニオン性シアニン色素の水溶液を滴下したところ、固液界面の動的な構造変化が誘起され、サンゴ礁様の高次構造が膜表面に形成されることを見出した。本年度は、その形成メカニズムの解明と得られた超構造体の光捕集特性について評価した。DSC測定から水存在下における二分子膜のゲル―液晶相転移温度(Tc)は40 ℃であることが分かった。つぎに、10℃から60℃まで温度を変えながら超構造体の形成について調べたところ、Tc 付近の40、50℃において最も発達した高次構造が形成されることを見出した。一方、60 ℃においては、ミエリン構造の形成とともに脂質分子が水中へ溶解し、色素分子と不定形な凝集体を形成した。このことから、高次構造の形成には適度な流動性を有する脂質二分子膜とアニオン性色素が非平衡条件下において静電相互作用することが重要であることが示された。また、蛍光スペクトル測定から超構造体においてシアニン色素はJ会合体を形成することが示され、つぎにアクセプター色素への光励起エネルギー移動について検討した。脂質分子とアクセプター色素の混合溶液からスピンキャスト膜を作製し、シアニン色素の水溶液を滴下した。興味深いことにシアニン色素のJ会合体を励起すると、その発光は消光されサンゴ礁様の高次構造全体からアクセプター由来の発光が観測された。このことは、膜表面の高次J会合体から膜内のアクセプター色素へ励起エネルギー移動が起こることを示しており、固体表面に構築したサンゴ礁様の高次構造が光捕集特性を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究実施計画では、固体表面の構造評価および高次構造化のメカニズムを解明する予定であった。実際に、温度を変えて高次構造の形成を評価したところ、脂質二分子膜のゲル―液晶相転移が高次構造の形成に重要な役割を果たすことを明らかにした。また、当初の研究計画では、得られた高次構造の光捕集特性を評価する予定であった。これについても実際にアクセプター色素を用いて蛍光共鳴励起エネルギー移動(FRET)特性について評価した。今後、発光量子収率や蛍光寿命測定によるエネルギー移動効率の値を求める必要があるが、おおむね順調に研究が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究成果を基にして、生命分子情報の変換・増幅システムの開発を行う。一般に、蛍光検出法は高感度で選択性が高いため、微量の成分分析に適しているが、低侵襲医療や患者のQOL向上の観点から、さらなる高感度化や微量分析法の開発が強く望まれている。本研究では、色素ネットワーク超構造から従来のバイオ分析に利用されている蛍光誘導体へのFRETを利用した超高感度分析システムを開発する。例えば、生理活性アミンやアミノ酸の蛍光誘導体、酵素活性の評価に利用されるレゾルフィン等を蛍光アクセプターとして色素ネットワーク超構造に吸着させると、膜表面の色素J会合体からのエネルギー移動により、その発光強度が桁違いに増大するものと期待され、従来法と比べて少なくとも2桁以上の高感度な蛍光分析が実現できる条件を明らかにする。
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