本研究は、固-液界面の非平衡分子拡散流の存在下における自己組織化現象に基づき、熱力学的支配のもとでは得られない複雑で多様な高次構造を固体表面上に構築するための方法論を開拓することを目的とする。また、その特異な超構造の形成に基づく光励起エネルギー移動界面の創製と分子情報の変換・増幅システムを開発することが目標である。昨年度までに、アルキル鎖長16の単純ジアルキルアンモニウム塩のスピンキャスト膜とアニオン性シアニン色素の水溶液を接触させるだけで膜表面の構造化が誘起され、サンゴ礁様の高次構造が形成されることを見出した。また、その超構造においてシアニン色素はJ会合体を形成し、蛍光アクセプターへ効率的に光励起エネルギー移動が起こることを明らかにした。本年度は、4-フルオロ-7-ニトロベンゾフラザン(NBD-F)により蛍光誘導化したアミノ酸を蛍光アクセプターとして用い、その高感度蛍光分析について検討した。吸収ならびに蛍光スペクトル測定の結果、超構造体におけるシアニン色素J会合体の発光波長とNBD-グルタミン酸誘導体(NBD-Glu)の吸収波長の重なりが大きいことが分かり、蛍光共鳴励起エネルギー移動(FRET)が起こり得ることが示唆された。そこで、シアニン色素と脂質から成る超構造体にNBD-Glu水溶液(1 nM)を滴下し、水洗した後、蛍光スペクトルを測定した。シアニン色素J会合体を光励起すると、NBD-Gluに由来する発光(550 nm付近)が明確に観測された。一方、NBD-Glu(1 nM)を脂質膜へ直接吸着させた場合は、NBD-Glu由来の蛍光は全く検出できなかった。このことから、極低濃度のNBD-Gluを蛍光検出するためには、シアニン色素超構造体による増感効果が重要であることが判明した。1 nM NBD-Glu水溶液の蛍光スペクトル測定では、低濃度のためその蛍光を検出できないが、シアニン色素/脂質超構造膜に吸着させることにより、高感度に蛍光検出することに成功した。
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