研究課題/領域番号 |
26390016
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
豊田 太郎 電気通信大学, その他部局等, 名誉教授 (40217576)
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研究分担者 |
沈 青 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (50282926)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 半導体量子ドット / 酸化チタン / 酸化亜鉛 / セレン化カドミウム / 光誘起電子移動 / HOMO準位 / 価電子帯頂上 / 増感太陽電池 |
研究実績の概要 |
半導体量子ドット(QD)は太陽電池の増感剤として、従来の色素増感剤を凌駕する特徴がある。従来の増感太陽電池では、QDの吸着面積を増やすためには酸化物のナノ粒子系基板が適用されてきた。しかし変換効率向上を目指すには、基礎的なQDの電子物性の評価が必要となる。基礎研究の一貫として、本研究ではQDの面方位の異なる酸化物基板結晶への吸着と、QD内での光誘起電子移動を明らかにする。本年度は、以下の3項目について研究を行った。(1)CdSe QDの電子移動速度定数の結果について考察するため、密度汎関数法(DFT)により、ルチル型TiO2の各結晶面方位における状態密度(伝導帯)の計算を行った。その結果、(111)面での状態密度は(110)面、(001)面に比べ局在化し、より大きな値を示すことが示唆され、(111)面での大きな電子移動速度定数が、波動関数の重なりの増加と共に、状態密度が高いことも要因であることが示された。(2)本年度は基板結晶として、TiO2以外にZnOを対象とした。ZnO基板を該当溶液に浸漬してCdSe QDの吸着を行った。ZnO基板への吸着速度はTiO2基板のおよそ2倍であり、(0001)面への吸着速度は(10-10)面と(11-20)面に比べて1.5倍ほど大きかった。CdSe QDの平均粒径の浸漬時間依存性は2ステップ状の不連続性を示し、結晶面方位依存性は見られなかった。また結晶の不整合はTiO2基板に比べて多かったが、浸漬時間には依存せず一定値を示しTiO2基板上のそれとは大きく異なることが判明した。(3)対象とするZnOの各基板結晶面における価電子帯頂上と、CdSe QDのHOMOの準位の評価を行った。その結果、ZnOの価電子帯頂上は(0001), (11-20), (10-10)の順で高く、CdSe QDのHOMO準位は作製時の浸漬時間に依存することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶面方位の異なるルチル型TiO2単結晶とZnO単結晶へのCdSe QDの吸着法を確立し、その後各結晶面におけるCdSe QDの吸着速度・粒径・結晶性の評価を行い、新たな結果を得ることが出来た。また、CdSe QDのHOMO状態の情報が得られ、TiO2系とZnO系では大きく異なることが判明した。これらの結果から、光誘起電子移動のdriving forceとなる自由エネルギー変化の導出が可能となり、TiO2系では各結晶面に吸着したCdSe QDからの光誘起電子移動速度定数の自由エネルギー変化依存性が得られた。その結果、CdSe QDの波動関数とTiO2の波動関数の重なりと、TiO2系の伝導帯における状態密度が光誘起電子移動に大きく寄与することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進として吸着するQDとしてPbSを対象とし、TiO2系単結晶基板とZnO単結晶基板への吸着を図り、電子状態の評価を行う。近年PbS QDを増感剤とする固体型量子ドット太陽電池の研究が活発になり、変換効率が増加してきている。そのためCdSe QDの適用と並行して、変換効率向上を念頭に置いた基礎研究の一貫としてPbS QDを対象とする。PbS QD吸着には種々の結合子を適用し、PbS QDの波動関数と基板結晶の波動関数の重なりをコントロールし、結晶面方位との関連について検討を行う。従来の光吸収評価、イオン化ポテンシャル評価、光励起電子移動評価と併せて量子化学計算(密度汎関数法)を適用して、測定結果に対する考察を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
秋季に行われた国際会議に参加する予定であったが、体調不良のためキャンセルしたため、次年度使用額が生じてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度にはこの次年度使用額と併せて、さらなる研究の進展のため、結晶面方位の異なる新たな酸化物単結晶(SrTiO3またはLaAlO3)を購入する予定である。
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