本研究では、人工ペプチドの自己組織化現象とフォールディング現象を巧みに制御することで、特定の限られた時間のみネットワーク状態を維持する新規機能性ゲル(時限性ハイドロゲル)の開発とその応用展開を進めている。本年度得られた成果を以下にまとめる。 (1) 自己組織性ペプチドユニットのさらなる拡張を目的に、前年度までに合成した種々の三分岐型コラーゲン様ペプチド(CMP)に加えて、疎水性かつ会合性の高いLeu残基をペプチド鎖の様々な位置に導入したCMP並びに従来のジエチレングリコールスペーサーの代わりに長さや疎水性、剛直性の異なる様々なスペーサーを導入したCMPを新規に合成した。水中での高次構造特性やゲル化特性、ゲル物性に及ぼすLeu残基や三分岐鎖のテンプレート構造が及ぼす影響を明らかにした。特にスペーサーの疎水性や剛直性が著しく高くなると、ゲル形成が阻害されることを見出した。 (2) レオロジー測定から各種CMPの形成するハイドロゲルの物性を評価した。いずれのゲルも歪みの増大に伴いゾル化し、歪みの解消により瞬時にゲル状態に回復する優れたインジェクタブル性を有しており、ゲルの破壊に対する自己修復性も有していることがわかった。 (3) 時限性CMPハイドロゲルのバイオ応用を念頭に、ゲルに内包したタンパク質や低分子薬剤モデルの水中での徐放特性を明らかにした。ハイドロゲルの自発的なゲル-ゾル転移時間に基づいて、内包物のリリース挙動が大きく変化すること、また内包させた物質の分子サイズによっても徐放特性が変化することが示された。本ハイドロゲルはペプチド分子構造に基づいてゲルの維持時間を様々に設計できるため、新しい分子徐放材料として興味深い。
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