本研究の目的は、「半導体量子ドット(QD)内で起こる多重励起子生成・緩和過程」を評価する新しい計測法を確立することである。QD内で起こる多重励起子生成・緩和過程は、太陽電池のエネルギー変換効率の飛躍的な向上や光増幅等につながる重要な過程であるが、評価方法は過渡吸収法に限られている。本研究では、「光子アンチバンチング測定」を駆使し、多重励起子生成・緩和過程を単一QDレベルで評価する新しい測定方法を確立する。これにより、多重励起子生成・緩和過程を支配する因子を解明し、高効率太陽電池創製等に向けた基礎的知見を得ることが本研究のねらいである。 これまで、多重励起子生成が可能なことが報告されているPbS QDをターゲットとするため合成を行い、PbS QDの単一測定を行ってきた。単一PbS QDの発光強度、発光減衰曲線は測定可能であったが、発光強度が低く光子アンチバンチング測定で発光特性を評価するには困難なことがわかった。また、発光寿命が長いことも測定を困難にしている一因であることがわかった。そのため、昨年度より当初の計画に基づきCdSe/ZnSを対象とし研究を遂行してきた。本年度は以下の項目を検討した。 1.パルス幅が100 psと100 fsのレーザーを用い、励起レーザーのパルス幅が多重励起子緩和に与える影響を検討した。100 psのレーザーを用いた場合、100 fsの場合と比べ、励起光強度が高くなり生成励起数が増えるにつれ、多光子発光の確率が高くなることを見出した。 2.CdSe/ZnSの粒径と多重励起子緩和の相関を検討し発光ピーク波長が670 nm程度の場合、フェムト秒レーザーであっても多光子発光の確率が高まることがわかった。 3.発光強度が低く評価が困難だったPbS QDの評価を目指し、プラズモンとの相互作用による発光増強を検討した。
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