研究課題/領域番号 |
26390027
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
目良 裕 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (40219960)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 走査トンネル顕微鏡 / 磁気円二色性分光 / ナノ顕微分光法 |
研究実績の概要 |
本研究では、3次元空間でナノスケールの分解能を持ち、時間空間でピコ秒の分解能を持つ走査トンネル顕微鏡(STM)とスーパーコンティニュアム光パルスを基にしたナノ顕微光吸収分光法に、磁気円二色性分光法(MCD)を組み合わせ、試料のスピン情報を含む電子構造を空間的に高分解能で、かつ時間分解して測定可能な新しいナノ顕微分光装置の開発を目的としている。測定系の構築の一環として、初年度の今年はSTM、レーザーの調整とともに、以下の項目を行った。 1.STMの試料・探針間に照射する目的での円偏光変調光学系の構築のための調整:MCDを行うためには円偏光によるスピン偏極電子励起が必要になる。そのための円偏光変調励起レーザー光学系を構築しなければならない。円偏光変調はポッケルスセルによる偏波面の回転を用いるが、当初予定していたスペックのポッケルスセルでは、偏波面の回転にかかる時間が長く、その間の励起光の偏光状態の乱れによってトンネル電流に大きな擾乱が起きることが共同研究先での実験結果から分かったため、必要なポッケルスセルのスペックの再検討を行った。またポッケルスセルに入射させる前段階のフォトニック結晶光ファイバーによるスーパーコンティニュアム光を発生させる光学系を構築した。 2.磁場印加用STM試料ホルダーの設計:MCD測定には磁場印加が必要不可欠である。当初、磁場印加には極低温STMのユニット部に磁場発生用のコイルを取り付ける予定であった。しかし、ポッケルスセルの性能見直しに伴う予算の不足のため、磁場印加方法としてはSTMの試料ホルダーにサマリウムコバルトの小型強力磁石を組み込み、磁場印加試料ホルダーを作成して対応することとした。STMのユニットに装着し、不具合なく測定を行うことができる試料ホルダーを設計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
超高真空STMの走査の安定度、および真空度に問題があり、対応に時間がかかったこと、またフェムト秒レーザーの安定的な発振がなかなか得られず、その調整に時間がかかったこと、およびポッケルスセルのスペック再検討が必要になったことにより、具体的な測定系の構築作業に着手するのが遅れたため、当初の予定より達成度はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下のように研究を進めていく。 1.磁場印加試料ホルダーの製作:設計した磁場印加ホルダーを実際に製作し、STMユニットに装着して高分解能測定が可能であることを実証する。 2.スーパーコンティニュアム光と分光器を用いたSTM-MCD測定:スーパーコンティニュアム光を分光器に通し、ポッケルスセルで円偏光変調した光をSTM探針-試料間に照射し、トンネル電流によりMCD信号を測定する。偏光切り替え時に照射量が乱れることがあれば、AO変調器により切り替え時のパルスを抑止することでトンネル電流への擾乱を防ぐこととする。 3.フーリエ変換光学系を通したスーパーコンティニュアム光パルスをプローブ光、円偏光変調光パルスをポンプ光として用い、STMトンネル電流を信号とするポンプ・プローブ実験を行い、時間分解MCDナノスペクトル測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポッケルスセル(変調器)を当初予定のものより高スペックのものを購入する必要があり、予算の関係から磁場印加の方法を真空槽内STMユニット周囲のコイルから、磁石による試料ホルダーに変更したため、設計をしなおす時間が必要だった。このため使用が次年度にずれ込んだ。ずれ込んだ分の用途は磁場印加試料ホルダーの製作に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費として磁場印加試料ホルダー、光学部品、真空部品に1000000円。学会発表及び研究打合せの旅費として 200000円、その他計算機使用量、論文別刷り代として100000円を予定している。
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