研究課題/領域番号 |
26390028
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 明 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80143543)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 単原子接点 / 高バイアス安定性 / 交流破断電圧 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,Auの原子サイズ接点を対象として,その交流破断電圧の測定を行った.最初に直流バイアスの下でMCBJ法により1G0接点(1G0接点はAuの単原子接点)を作製・保持し,回路を交流回路に切り替えて接点に交流バイアスを印加する.交流バイアスの振幅をゼロから直線的に増加させてゆき,接点が破断するときの振幅を検出した.当初は接点の交流電流を直接オシロスコープでモニターすることを予定していたが,破断振幅の正確な検出が難しいことが判明したため,交流信号を検波して電流振幅を記録する方式に変更した.このため交流の帯域が検波回路の帯域で制限され,測定は10~100kHzの周波数域で行なった. 実験は室温および液体ヘリウム温度で行なった.液体ヘリウム温度の実験では,インサート型のMCBJを高周波測定用に改造して使用した.実験の結果,どちらの温度の場合にも接点破断の振幅は直流での測定結果を上回ることはなく,また破断振幅の周波数依存性も観測されなかった.このため期待された交流バイアスの効果,すなわち直流よりも交流の方が接点の高バイアス安定性が向上する,は少なくともkHz帯では観測されなかった. 交流バイアスの効果は,電流による原子の駆動力が,電流の向きが変化する交流では時間平均されて小さくなることに由来している.しかしバイアス電圧を増加させてゆく破断実験では,高いバイアスになると接点原子の揺らぎ振動数が高くなり,破断点付近では交流の時間平均効果が効かなくなってしまう.これが今回破断電圧に対する交流の効果が観測されなかったことの原因ではないかと推定される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に予定されていた研究課題は,(1)高周波用低温MCBJの整備,(2)周波数帯域および測定方法の検討,(3)Au単原子接点の交流破断電圧の測定,(4)交流破断電圧の周波数依存性とその解析,である.概要に記したようにこれらの課題はすべて実施済みである.(2)については当初考慮されていなかった原子の揺らぎ振動数の問題が浮上し,結果として(3),(4)の実験結果は期待していた結果とは異なるものとなったが,26年度の研究を通して今後研究を展開してゆくに必要な知見は十分に得られたと考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
当初平成27年度に予定されていた研究課題は,(1) Au以外の金属単原子接点の交流破断電圧の測定,および(2)交流破断電圧の温度依存性の測定,であったが,26年度の研究結果から,交流破断電圧の測定実験では,原子の揺らぎ振動数の増加のために交流の時間平均効果が効かなくなり,交流効果の観測が難しいことが明らかになった.このため測定の対象を,交流破断電圧から交流下での接点寿命に変更する.寿命測定ではバイアス振幅を低く設定できるので原子の揺らぎ振動数も低く抑えられ,交流下での接点寿命の増加として交流効果を観測できると考えられる.このような測定は金属配線のMTTF測定と同じであり,MTTFに対する交流の影響と同様の効果が期待される. 接点の寿命測定は直流で行った実績があるので,交流の場合にも装置・回路の大幅な改造は必要としない.実験はAu単原子接点を対象とし,室温および液体ヘリウム温度で実施する.
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