平成27年度の報告書に記したように,28年度はAu接点のリレーを対象とした実験を行い,コンダクタンスヒストグラムの単原子ピークがRFバイアスの下でどのようなバイアス振幅依存性を示すか,を調べることとなっていた.リレー接点の測定にはオシロスコープを用いるが,RFバイアスの下では信号も高周波変調されてトリガレベルを繰り返し横切るため,接点破断を観測できる最適なトリガ位置を見出すことが困難であった.様々なトリガ方法を模索したが,良策は得られなかった. このため平成28年度は,単原子接点の寿命を決定している要因の一つである接点内部張力に関する知見を,分子動力学シミュレーションを通して得ることを行った.単原子接点の安定化エネルギーWはW=U-αV-βFのようにバイアス電圧Vと内部張力Fによって低下するとされている.従来の研究では専らVの影響が調べられ、Fについては系統的な研究が行なわれていなかった.今回の研究では [100]方位のAuナノワイヤの引張り変形シミュレーションを様々な温度の下で行い,ネッキング変形に伴う接点の最小断面積Sおよび引張力Fの変化を観測した.単原子接点が形成される破断直前のFの最尤値は4 K で1.2 nN であり,この値はAu単原子接点の引張り強度の実験値1.5 nNにほぼ一致している.しかしFの分布は非常に幅が広く,Fの温度依存性などの解析は困難であった.そこでFの最小断面積Sに対する依存性を求め,S=1におけるFが単原子接点の破断力であるとしてその平均値<F >の温度依存性を調べた.その結果,<F >はほとんど温度依存性を示さないことが明らかになった.この結果はFの感度係数βが大きいことを示しており,大きなβはAu単原子接点のβの推定値(0.49 eV/nN)とは矛盾していない.しかしF のばらつきは特に高温で大きく,βの定量的な評価は困難となっている.
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