炭素担持金属ナノ粒子触媒は有機合成触媒や電極材料,水素センサ等のデバイスとして実用化されているが,現代の元素戦略にマッチするためにはさらなる精密設計が必要である.特に有機合成用触媒は,稀少元素の有効利用を念頭に,環境調和型物質製造プロセスを開発する鍵である.本研究では,精密構造制御を基盤とした次世代炭素材料の可能性を追求し,分析化学と精密有機合成化学の両面から炭素材料の構造と触媒機能の相関を解明しつつ実践的なもの創りを達成しうる高機能触媒を開発し,新たな担持型金属ナノ粒子触媒の設計指針を提供することを目的としている. 最終年度では,既に合成・構造解析に成功し,ベンジル位の炭素-酸素結合の水素化分解を効果的に抑制できることを見出していた窒素含有炭素ナノ繊維に担持したPdナノ粒子についての詳細な検討を行った.その結果,まず水素化分解の抑制機能については,炭素-酸素結合のみならず炭素-窒素結合でも効果的であることを見出し,様々な還元性官能基が共存し,ベンジル位に炭素-酸素もしくは炭素-窒素結合を有する化合物の官能基選択的水素化反応を詳細に検討し,その成果を現在,論文にまとめている所である. 一方,還元剤としてヒドロシランを用いると溶液中に微小な金属コロイドが生成することを昨年度に明らかにしていたことから,この金属コロイドを効果的に発生しうる炭素材料の詳細な検討を行った.その結果,ある種の市販の活性炭を用いた場合に,炭素ナノ繊維を担体とした時より触媒活性が数十倍にも向上することを見出した.これらの触媒は適切な助触媒の共存下でエステルの部分還元ならびに脱酸素型還元反応に極めて優れていることを明らかにし,現在,論文作成中である.この研究成果は,反応前後では不均一触媒として機能するが,活性種は溶液中に溶け出した高活性金属種であるという,新たな触媒設計指針を提供できるものと考えている.
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