研究課題/領域番号 |
26390032
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
雨倉 宏 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点 光・イオンビーム物性グループ, 主席研究員 (00354358)
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研究分担者 |
河野 健一郎 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, 主任エンジニア (50354353) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高速重イオン / 金属ナノ粒子 / 楕円形ナノ粒子 / ナノロッド / Ion Shaping / 照射誘起楕円変形 / プラズモニクス / イオンビーム |
研究実績の概要 |
平成27年度は計画通りに以下の2つの課題について研究を実施した。 (1) ロッド化効率の照射温度依存性の評価:ハンマリング効果がロッド化に関与しているかを検討するために照射温度依存性を調べた。前者は照射温度が上昇すると変形が小さくなる。照射温度を100K~700Kの範囲で変化させ、ロッド化を評価した。照射温度を上記範囲で変化できる装置がインドの加速器施設IUACにあることから、協力を依頼して照射を実現した。しかし照射時間を24時間以内と制限されたため、照射条件を妥協した。そのため、変形が小さく、また温度の安定度にも問題があったため、測定結果はバラつきが激しく、結論は得られなかった。 そこでIUAC施設で最も重く高エネルギーだがビーム量の限られる120 MeV Agで再実験を提案し、必要性を訴えて倍の照射時間48時間を獲得した。やっと3月に照射が実現し、現在は試料が郵送されてくるのを待っている。 (2) 規則配列した単分散ナノ粒子への高速重イオン照射:電子線リソグラフィー(EBL)により規則配列させた金ナノ粒子に対して高速重イオン照射を行い、誘起される形状変化を電子顕微鏡観察等で評価する課題である。ロッド化が起こるためにはナノ粒子を絶縁体SiO2に埋め込むことが重要だが、TEM用試料作製FIBでは絶縁体中のものは観測できない。そこでナノ粒子の横に大きな金属構造を作り、それを目印にすることを試みたが、それすら観測できなかった。そこで、Heイオン顕微鏡が絶縁体に埋め込まれた金属構造を観測することができるという最新の情報を聞きつけ、観測を依頼した。実際、40 nm径の金ナノ粒子の観察には成功したものの、それ以下は無理であった。同一試料に照射後、再度観察を行ったが、40 nmと粒径が大きすぎたためか、それとも感度ぎりぎりのためか、楕円化は観測できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は(1) ロッド化効率の照射温度依存性の評価と(2) 規則配列した単分散ナノ粒子への高速重イオン照射という2つの課題を検討した。(1)に関しては、加速器施設の使用時間の制限から妥協した条件で照射を行い一度失敗したが、妥協を排した条件で照射をやり直した。また同じ照射温度に二つの試料を配し、一つの試料のみ照射する。こうすることにより、温度変化によるナノ粒子への影響と照射温度効果を分離できる。近々中に試料が届き測定が開始でき、結論がでる予定である。 (2)の方は限られた領域にのみ存在するナノ粒子をどのように感知し、加工して観測するかという課題に直面している。効率が悪いが以下のような方法が考えられる。(a)イオンミリングで平面TEM試料を作製し観察する。うまく行けば1個の試料でサイズ依存性が測定できるが、全部観測することは不可能であり、後は運任せで、全ての場所が観測できるまで、次々に試料を交換して同様の作業を繰り返す。(b)小さな試料を作製し、EBLで辺り一面に同一のナノ粒子を作製し、どこを切っても同じ形状のナノ粒子が出てくる試料を用意する。サイズの異なるナノ粒子については、別の試料に作ることとなり、サイズ依存性を測定するには多数の試料が必要となる。どちらも余り賢くない方法なので、現状ではそれら以外の可能性を探している。しかし切羽詰まれば、(a)か(b)の方法を選択する。 しかし、今後の研究の推進方策にもあるように、この程度の困難は研究当初より想定範囲内である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は当初の計画通り、3年間の本研究で対象にした3つの項目の残った問題点、補足すべき点等について研究を進め、全体をまとめる。 (1) 規則配列した単分散ナノ粒子への高速重イオン照射: 本項目が唯一予定より遅れているので、中心的に進める。 (2) ロッド化効率のSiO2媒質中での深さ依存性: 深さ依存性がほぼ観測されなかったという結果がでており、ロッド化はハンマリング効果の影響を受けていないという我々の主張を支持する結果であり、ほぼ完了に近い。 (3) ロッド化効率の照射温度依存性: インドから届くであろう試料の測定結果に大きく進捗状況が依存するが、上記(2)のようにハンマリング効果がロッド化に関与していないのであれば、あまり照射温度依存性が出なかったという前回の測定結果は正しかったのかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験結果は対応する理論計算結果と組にして発表することにより、その価値が格段に上がる。本研究立案時、高速重イオン照射で楕円変形する金属ナノ粒子の光吸収スペクトルを計算するソフトウェアの購入を検討したが、数百万円もするため断念した。しかし当該年度半ばに80万円ほどの低価格のものを発見した。本研究の用途に耐えうるものか調査したところ、業者から現状では難しいが12月に発売する最新版ならば可能だとの返事をもらった。そこで発売を待って、デモ計算をしてもらったが、計算結果が怪しく、購入を中止した。そのためソフト購入費用がそのまま残ってしまい、次年度使用額となってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
名誉なことに、10月にフランスで開催されるIEEEの国際会議で本研究テーマに関する招待講演を依頼された。本予算より出張費を捻出し、ぜひ招待講演を行いたい。また、11月には当該研究分野で定評があり、本研究テーマと関連する国際会議がニュージーランドで開催される。本成果の発表のために参加する。また、本研究に関連する実験のため、インドのIUAC加速器施設を訪れる必要がある。3件の国際出張と関連する国際会議参加費だけで120万円は使用されることとなる。また国内旅費は、今年から原研東海の施設に加え、原研高崎の施設での照射実験が行えるようになったため、これまでの2倍以上必要になる。
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