昆虫のにおい受容体は、揮発性有機化合物を含む多種多様な化学物質のシグナルを電流変換する機能を持つ、イオンチャネルファミリーである。本研究では、生物工学とMEMS 技術を利用して、これらのイオンチャネルを利用した簡便なセンサーを開発し、新規の生体分子計測技術としての可能性を探索した。 におい受容体はバイオセンサーとして大きな注目を集めているが、いまだ生体が行う様な気体状分子を検知させる事には成功していない。そこで、イオンチャネルを発現した均質な細胞を集積化することで、においに対する微小な細胞内電位変化を増幅し、細胞外電位として容易に測定できるデバイスの開発を試みた。まず遺伝子発現条件を検討し、におい受容体遺伝子を導入したHEK293T細胞を、PDMSで作製したマイクロチェンバーで培養する事で、におい受容体を発現したスフェロイドを作製した。このスフェロイドをPDMSをモールドとして作製したアガロースのマイクロチェンバーに置いたところ、表面にマイクロスケールの液相が形成された。そこでイオンチャネル電流を細胞外電位として測定した結果、気体状匂い分子に対する反応が測定できた。この方法を用いて、ハマダラカのGPROR2という、生体では2-メチルフェノールに応答する受容体を測定した結果、気相匂い刺激では2-メチルフェノールにはほとんど応答せず、ベンズアルデヒドに強く応答することがわかった。この結果は本手法では再現できていない、生体の嗅覚器表面を構成する気液界面に含まれる成分が、におい受容体のにおい認識に影響を与える事を示している。 本手法は、このようなにおい認識における気液界面の役割を明らかにする上で有用であると考えられた。以上の成果は応用化学分野の最高峰誌であるAngewandte Chemie International Editionで報告した。
|