研究課題/領域番号 |
26390045
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
荻野 拓 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (70359545)
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研究分担者 |
下山 淳一 青山学院大学, 理工学部, 教授 (20251366)
岸尾 光二 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50143392)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 複合アニオン化合物 / 層状化合物 / 自然超格子 / 発光 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
我々は複合アニオン化合物と呼ばれる、複数のアニオン層が交互に積層した層状化合物に着目した。これらの化合物は層間の性質の違いに由来する自然超格子構造を形成するほか、特異的な配位構造を取りうる。 そこでこの複合アニオン化合物について、化学的な観点から相生成指針を見出すことにより新物質を開発した。我々はこれまでに、励起子発光物質Sr2ScCuSO3をはじめ数多くの複合アニオン化合物を発見している。この際に得られた知見を元に新規化合物の探索を行った。その結果、MnAs層、AgSe層を持つ化合物を中心に、30種以上の化合物を発見した。このうちSr2ScCuSeO3、Ba3Sc2Cu2Se2O5などの化合物では自然超格子構造に由来すり発光を観測した。またCrP層を持つ初の化合物BaCr2P2、CrAs層を持つ新規化合物Sr2ScCrAsO3などを発見した。CrP層、CrAs層は、高温超伝導を発現する鉄系超伝導体の超伝導発現層であるFeAs層と構造的に同一で、関連化合物として注目に値する。 この他広いバンドギャップと、酸素5配位の希土類サイトという特異な配位環境を持つ化合物、Ba3Y2Cl2O5、Ba3Lu2Cl2O5等を発見した。これらの化合物は、希土類サイトにEuやTbを添加することで発光を示し、特にEuを添加した場合には80%程度の量子収率で発光した。今後更に高い特性や特徴的な性質を見出すことで、実用材料化を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では系統的に物質探索を進めることで、まだ成果発表を行っていないものも含めて100種を超える複合アニオン化合物を発見した。研究当初に予想していたように、Ba3Y2Ag2Se2O5, Ba3Lu2Ag2Se2O5など、半導体層と絶縁体層が積層した化合物では、自然超格子構造に由来する励起子発光を見出した。一方層の種類を変えることで、広いバンドギャップと特異な配位環境を持つBa3Y2Cl2O5などの化合物を発見し、蛍光体としての応用が期待できることを見出した。複合アニオン化合物は元素の組み合わせを変えることで全く異なる機能性を発現されられることも特色であり、新規超伝導体の開発を目指して開発したSr2VMnAsO3、Sr2Mn3Bi2O2などMnニクタイド層を持つ化合物が抵抗率が大きな圧力依存性を持つことを見出した。この他、BiS2層を持つ複合アニオン化合物が、トポタクティック反応と呼ばれる合成後に二次反応によりキャリアドープを行う手法により、超伝導化することを見出した。特にトポタクティック反応については汎用性があり、これまで発見した化合物などに適用することで超伝導などの機能発現が期待できる。このように物質の数、機能共に当初の計画より大きな成果を挙げており、今後の発展が見込めると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、本研究では非常に多くの複合アニオン化合物を発見しており、今後更に探索を進めることで物質ライブラリを構築できると考えられる。機能性の面でも、当初想定していた自然超格子に由来する機能のみならず、例えばBa3RE2Cl2O5は発光元素の添加により蛍光特性が発現することが分かってきており、様々な機能発現が可能であることが今回の研究により明らかとなって来ている。本研究をきっかけに複合アニオン化合物の機能発現と有用性が広まれば、合成化学・物性研究・計算科学など様々な分野の研究者が参画すればより体系的な理解が進むことが期待される。複合アニオン化合物は、当初は既知の無機化合物の部分構造を組み合わせた物質のみが報告されていたが、この物質の特異性を理解することで単体では生成し得ない部分構造も生成しうることが分かってきた。同様に機能性においても、本系の結晶構造は人工超格子では実現不可能な積層と単純化合物にはない配位構造が可能であることから、人工超格子・ナノ粒子もしくは各部分構造で見出されている機能の発現・向上にとどまらず、このような積層構造を有する化合物でのみ発現する機能性が期待できる。今年度は、これまで発見してきた化合物の物性・機能性を評価するとともに、これまでの物質探索結果を活かし、系統的な材料探索を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に液体ヘリウム等の使用額が少なくて済んだ繰越分が残っているためで、当該年度だけを見ればほぼ計画通りである。
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次年度使用額の使用計画 |
液体ヘリウム及び高純度ガスの経費がかかるほか、研究に必要な消耗品・旅費等で消化する予定である。
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