光機能性タンパク質・バクテリオロドプシン(bR)を用いた光記録デバイス開発を目的として、デバイス化に必要不可欠である試料の固体化を中心に研究を行った。平成28年度は、(1) 凍結・融解法によるポリビニルアルコール(PVA)ハイドロゲル固定紫膜試料、(2) bRを脂質2重層膜に再構成したプロテオリポソームをPVAで固定化した試料、(3) アガロースゲル固定紫膜試料について、bRの構造・機能評価を行った。 (1) 放射光X線回折実験により、①紫膜のPVA溶液への混合、ゲル化がbRの2次元結晶に影響しない事、②紫膜・PVA混合溶液のみに存在した等方的な構造周期(約20 nm)が紫膜濃度減少に伴い増加した事、③ゲル化に伴い等方的周期構造が不鮮明となり、紫膜が単一方向に積層した事、がわかった。時間分解分光実験により、PVAハイドロゲル中の紫膜bRの光サイクルは全体として溶液系での挙動と同一であるが、凍結前の紫膜・PVA混合溶液ではbR基底状態への復元過程が若干遅く、ゲル化に伴い溶液系に近付く結果が得られた。現時点ではゲル化に関与しないPVA鎖と紫膜との相互作用が疑われている。 (2) 脂質膜のゲル―液晶相転移を利用しbRの結晶性を温度で制御する再構成膜について、PVA溶液と混合し凍結・融解法により固定化した。この固体試料の可視CD分光から、相転移温度以上において2次元結晶が融解する結果が得られ、固体試料でも脂質膜相転移によりbR結晶性の制御が可能である事が示された。 (3) アガロースハイドロゲル固定化紫膜試料を作製し、bR機能・構造評価を行った。bRの光サイクルは溶液系と変わらず、アガロースはPVAと同様にbRの機能を損なう事なく固定できる媒体であった。一方PVAで見られた紫膜の積層はアガロースゲル中では見られず、高分子鎖のゲル化機構が紫膜の積層に本質的に関与している事がわかった。
|