研究課題/領域番号 |
26390050
|
研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
茂筑 高士 独立行政法人物質・材料研究機構, 超伝導物性ユニット, 主幹研究員 (20354293)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 高温超伝導体 / 磁性超伝導体 / 固溶体 / 反強磁性 |
研究実績の概要 |
超伝導と磁性とが競合する系は、基礎及び応用の両面から非常に興味ある系である。本課題で取り上げるFeSr2YCu2O6+δは、超伝導と磁性とがそれぞれCuO2面とFeOδ面に二次元的に発現するという特徴を有する。また、他の超伝導と磁性とが競合する系と異なり、両者の発現を独立に制御できる可能性があるが、その物性はまだ明らかではない部分が多く、初年度においてその物性の概要を把握することを目指した。FeSr2YCu2O6+δは合成したままでは超伝導にはならず、超伝導化するには還元アニールとそれに続いて行う酸化アニールが必須となる。合成したままではCuとFeとが積層方向に規則配列していないので、還元アニールによりCuとFeの配列を規則化し、その後還元アニールで減少した酸素量6+δを酸化アニールにより補填することにより、CuO2面上に超伝導とFeOδ面上の反強磁性的な磁気秩序が発現する。酸化アニール条件により、酸素量6+δ、すなわち、CuO2面上に供給される超伝導キャリア濃度を変化させて、超伝導転移温度Tcを変えることができる。 一方、磁性を制御するためには、FeOδ面上の Feを一部Cuに置換したFe1-xSr2YCu2O6+δ固溶体をすることにより実現できる。x = 0~0.7の範囲のFe1-xSr2YCu2O6+δ固溶体においてほぼ単相が作成でき、x > 0.4において磁性は消失し、中性子回折によると格子定数、CuとFeの規則度及び酸素量6+δはxに対して単調に変化することが明らかになった。しかしながら、x = 0.2~0.4の領域において、x = 0近傍及びx = 0.7近傍と比べてTcが30 K程度低下するという異常な振る舞いが見られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下のように、当初の計画通り進行している。 今まで報告がなかったFe1-xSr2YCu2O6+δ固溶体の安定領域(x = 0~0.7)を明らかにした。また、その中の代表的な組成について磁化測定を行って、超伝導転移温度Tc及び反強磁性的な磁気秩序が発現する温度(ネール温度)Tmを整理し、Fe1-xSr2YCu2O6+δ固溶体の磁気相図を作成した。作成した磁気相図を簡単にまとめると以下のようになる。x < 0.4の試料で20 K以下において反強磁性的な磁気秩序が観測され、xが増すと若干Tmが減少する傾向がある。x > 0.4では磁気秩序は抑制され、磁化測定に転移は見られない。 また、超伝導は全領域で観測され、x = 0近傍及びx = 0.7近傍ではTcは60 K程度であるが、当初の予想とは異なり、x = 0.2~0.4でTcが30 K程度低下する異常が見られるという新たな発見があった。
|
今後の研究の推進方策 |
作成した磁気相図をもとに詳細な物性測定を行い、この系の磁束状態を明らかにする。Fe1-xSr2YCu2O6+δ固溶体の中でも代表的な組成を持つ高品質試料を合成し、特に、固有ジョセフソン接合に由来する現象、例えば、磁場中の異常な電気抵抗の振る舞い、ジョセフソンプラズマ、磁束線フロー抵抗における周期的振動、THz 波の発振等がFeOδ面上の反強磁性的な磁気秩序からどのような影響を受けるか、という観点から、磁気特性、輸送特性等の測定を行う。 また、Fe1-xSr2YCu2O6+δ固溶体の結晶構造パラメーターのxに対する変化に特に異常が見られないのにもかかわらず、一部の領域でTcの異常な低下が見られた。物性測定やさらなる精密な結晶構造解析(低温での結晶構造の解析なども含む)を行い、その要因を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
端数のため、次年度使用額が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
原料及びるつぼなどの実験消耗品費用として使用する。
|