本課題で取り上げるFeSr2YCu2O6+δ高温超伝導体は、Ba2YCu3O6+δのBaをSrに、Cuの一部をFeに置換した系で、超伝導が発現するCuO2面と磁性がFeOδ面とが積層された構造を持つ。超伝導と磁性とが競合する他の系と異なり、両者が二次元的に競合しているところに特徴がある。特に、粒間電流密度が親物質であるBa2YCu3O6+δと比べて異常に低く、各サイトの置換による超伝導への影響も親物質と大きく異なることがわかってきた。 CuO2面間に位置する希土類サイトを置換する場合、置換するイオンの価数が変わらず、酸素量6+δも変化しなければ、キャリア濃度は変化しないので、超伝導転移温度Tcは変わらないはずである。しかしながら、Yサイトを同じ価数の希土類元素に置換し、同一熱処理を施して酸素量6+δを同じにした場合、置換する希土類元素のイオン半径が大きくなると、Srと希土類元素の相互置換によりTcは低下する。FeSr2NdCu2O6+δでは超伝導を示さない。希土類元素の磁気モーメントが大きい場合は、希土類元素自身が持つ磁性(主に常磁性)が近接するCuO2面上の超伝導に影響を及ぼしていることが明らかになった。特に、FeSr2TbCu2O6+δでは、希土類元素のサイトのイオン半径をTbと同じにしたFeSr2Y0.767Nd0.233Cu2O6+δと比較すると極端にTcが低下していて、7 K以下で反強磁性秩序を示す。中性子回折によると二次元的な磁気構造である可能性が高い。
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