本年度は、Liイオンの高速伝導が期待できるLi-Ti-P-O系アモルファス薄膜のナノ構造解析を行った。具体的には、膜厚約200 nmのアモルファス薄膜を作製し、断面透過電子顕微鏡法による組織観察、ナノビーム電子回折法を利用した電子線動径分布解析による局所構造解析ならびに熱処理に伴う局所構造変化、エネルギー分散型X線分析法による組成評価を行った。本材料は電子線照射耐性が低くダメージによる構造変化を生じやすいが、冷却ホルダーを用いて試料を冷却し、昨年度実施した予備実験により最適化された電子線照射条件下において電子回折実験を行うことで電子線定量解析に基づく構造評価が可能となった。まず、アモルファス相の熱的安定性について調べた所、750℃の熱処理により試料は完全に結晶化することが確認された。X線回折実験の結果、得られた結晶相はNASICON型構造を有することが明らかとなった。また、電子回折実験では回折強度が散乱ベクトルQに対してQ = 220 nm-1の比較的高散乱角側まで取得できることが確認され、その強度プロファイルをフーリエ変換することで精度の高い二体分布関数が得られた。二体分布関数で観察された第一および第二ピークは、それぞれP-OおよびTi-O間の原子間距離に対応すると考えられるが、熱処理温度の上昇によりこれらのピーク位置が短距離側へとシフトすることが確認された。シフト後の原子間距離は、NASICON 型構造のLi-Ti-P-O結晶相におけるP-O、Ti-O原子間距離と良い対応を示したことから、熱処理に伴い結晶相に由来する中距離秩序領域が形成されることが考えられる。
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