研究課題/領域番号 |
26390059
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
野島 勉 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80222199)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化物エレクトロニクス / 電界効果 / 電気二重層トランジスタ / 2次元電子系 / スピン-軌道相互作用 |
研究実績の概要 |
26年度までに、電気二重層トランジスタ構造によりSrTiO3(001)表面上に形成される2次元電子系は、高い電子密度において、ある温度以下で巨大な磁気抵抗効果を示すものの、明確な磁気秩序を示さないことを明らかにし、これが電場とともに増強されるスピン軌道相互作用に由来した伝導電子のスピン整列現象に相当する可能性を示した。27年度は、次なる目的である磁気特性の解明とその発現条件を探るべく、様々なキャリア密度における磁気抵抗の温度、磁場および磁場方位依存性を詳細に行った。 1平方cm当たり10の13乗個から1.5桁に及ぶ広い範囲で電子面密度を変化させながら、磁気抵抗の測定を行ったところ、電子移動度が十分に高い試料では、30K以下の低温において、すべての電子密度に共通して、伝導面に垂直磁場中で正の磁気抵抗、面内磁場中で負の磁気抵抗効果を示すことがわかった。さらに負の磁気抵抗の面内磁場方位依存性が低電子密度側では等方的であるのに対し、電子密度の増加とともに、[100]と[010]軸上で極小を示す異方的な振る舞いに変わる現象を新たに見出した。 得られた実験結果をTiの3d軌道におけるラシュバ型スピン軌道相互作用の理論に照らし合わせると、低電子密度側は電場によって分裂した3つのt2g軌道のうちのエネルギーの低いdxy軌道のみに電子が占有された状態、高電子密度側はdxyとエネルギーの高い他の軌道(dyzもしくはdzx軌道)が混成した軌道まで電子が占有された状態に対応する。この場合、スピン軌道相互作用によるスピン編極ベクトルは、前者では等方的であるが、後者では値が大きく、かつ異方的( [100](x)方向の運動量の絶対値が[010](y)方向のものより大きい時y方向、小さい時x方向)になると予測される。これが実験による磁気抵抗の異方性のキャリア密度依存性とよく一致することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
27年度の重要な結果は、電場誘起されたSrTiO3の2次元電子系における磁気抵抗特性を電子密度、温度、磁場方位依存性といった様々な観点から詳細に明らかにし、さらに一連の実験結果を「立方晶のd電子系における軌道混成により増強されたラシュバ型スピン軌道相互作用」を起源としたスピン整列現象で半定量的に説明できたことである。このスピン整列が起こる温度以下では、電子のスピン散乱が減少することにより電子の移動度が増大するはずであるが、これを裏付ける電気抵抗の急激な減少や垂直磁場中の磁気抵抗の急激な増大も26年度の結果に加えて電子密度依存性という形でより系統的に観測できた。よって27年度の目的であった磁気特性の解明はほぼ達成され、かつ発現条件にも踏み込むことができたため、順調に進展していると言える。 本物質系の電子状態において、どのバンドまで電子が占有されているかということに関しては、基本的な観念を使っての理解は進んだが、電場印加により複雑にサブバンド分裂した状態を考慮した詳細な解析までは進んでいない。これらを28年度の背面ゲートを用いた実験結果と合わせて解析することにより、研究は計画通り進むことになる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、電場誘起されたSrTiO3の2次元電子系においては、電場印加によるラシュバ型スピン軌道相互作用によるスピン整列現象が起き、従来の強磁性や反強磁性とは違うタイプの磁性が出現することがほぼ明らかになった。これをより確実にするためには、スピン軌道相互作用に直接寄与する電場のみの効果を知る必要がある。これまで用いてきた電気二重層トランジスタ構造では、電場の増加とともに電子密度も増加する構造になっているため、磁気抵抗効果の増大に関する定量的な評価に限界があった。よって今後は試料の表面からだけでなく、試料基板の背面からも電場が印加できる背面ゲート付き電機二重層トランジスタを新たに作製し、電子密度をほぼ一定にした状態で磁気抵抗における電場のみの効果を抽出する。これにより理論モデルとの比較もより進み、本研究の最終目的である磁気特性の発現機構解明まで到達することができる。 このような表面・界面における電子物性をより細部まで理解するめには、本研究の参照系であるLaAlO3/SrTiO3ヘテロ界面でも議論されているように、表面(界面)での酸素欠陥の効果についても情報を得ておくことが後に必要となるであろう。計画より早く実験が進んだら、真空熱処理やイオンミリングで表面に酸素欠陥を導入した試料を用いて、26-27年度と同様な磁気輸送特性の実験も試みる。
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